TOPインタビュー

国際紛争、大規模災害、少子高齢化など、厳しい状況の中で新しい道を拓くための人材育成・社会貢献に資する大学への期待は大きい。真摯に改革に取り組む大学トップの声を紹介する。

上智大学 杉村 美紀学長インタビュー[前編]

ユネスコチェアに採択

杉村ここ最近、力を入れているのは、2024年2月に上智大学が選出された「ユネスコチェア*」です。

*ユネスコチェア(UNESCO Chairs)とは、知の交流と共有を通じて、高等教育機関および研究機関の能力向上を目的とするプログラムです。高等教育機関の国際的な連携・協働を促進することにより、人的・物的資源のシンクタンクとして、また教育・研究機関、地域コミュニティ、政策立案者間の橋渡し的存在としての役割を担うことを目指します。引用:ユニツイン/ユネスコチェア事業の概要:文部科学省 より

「ユネスコチェア」に認定されたプログラムは世界に900以上あり、各大学が独自のテーマを設定しています。上智大学のテーマは「人間の尊厳、平和、サスティナビリティのための教育」というものです。ユネスコと協力したシンポジウムや政策対話会合への参加など、さまざまな取り組みをしています。

この事業の基となったのは、直近の3年間、大学のサポートのもと行ってきた「持続可能な開発のための教育」(ESD)に関する国際共同研究プロジェクトです。3年の間、数多くのシンポジウムを実施し、その時に関係ができた大学と一緒に、次なる一歩を実施しようということになりました。その結果、5つの大学と3つの国際機関が連携できることになりました。

5つの大学は、敢えて世界のいろんな地域から選びました。イエズス会の大学であるアメリカの「ボストンカレッジ」、同じくイエズス会の大学である中南米のコロンビアにある「教皇庁立ハベリアナ大学」、さらにやはりイエズス会の大学であるフィリピンの「アテネオ・デ・マニラ大学」。この大学は先ほど申し上げた「グローバル・リーダーシップ・プログラム」でも一緒にやってきた関係性があります。そして、マレーシアの「国際イスラーム大学」です。これはイスラーム学を研究している国立大学です。この大学もユネスコチェアとして活発な活動を展開しています。さらにエジプトの「エジプト日本科学技術大学」。この大学は、日本政府が設立した大学で、上智大学とつながりのあるJICA(国際協力機構)がサポートしています。

5つの大学をつなげると、ちょうどアメリカ大陸からアジア、そしてアフリカの橋渡しをしていることになりますね。

さらにこれらの5大学に加えて、3つの国際機関がつながっています。1つ目は、学生の交換を行ない、大学院生の相互履修が可能なプログラムも持っている国際機関である「国連大学」、それから、韓国にある国際理解教育のユネスコのカテゴリー2センターである「アジア太平洋国際理解教育センター」。そして、シンガポールに拠点を持つアジアと欧州をつないでいる「アジア欧州財団」という機関です。こうして、5大学と3つの国際機関で構成されるチェアが、2024年の2月に発足しました。(上智大学 ユネスコチェア

2024.02.28.ユネスコチェアシンポジウム(画像提供:上智大学様より)
2024.02.28.ユネスコチェアシンポジウムにて

世界の人々と叡智をつなぐ

杉村:とんでもありません。ただ、私はよく「台風の目みたいだ」と言われます。私は真ん中に立っているけど、周りの人がぐるぐる周らされている、ということでしょうか(笑)。学生からも言われます。つながって対話できるパートナーがいるからこそ、できることがたくさんあると思います。

つなぐということによって、今の日本が世界に貢献できる、という視点もあって良いのではないかと思っています。今、世界で様々な問題が起きています。紛争があり、戦争があり、国によっては、他国とつながることができない状況がある。

そんな中、今の日本は、いろいろな国とさまざまなコネクションを作ることが可能です。言論の自由もあり、アイディアも自由に表現できる。これは大変大事なことであると考えます。そこには日本の大学が負うべき責任や役割もあるのではないか。ユネスコなどの国際機関や、様々な国際会議での議論に参加していると、つくづくこのように思います。

上智大学には多様なバックグラウンドの方がいますし、もともと世界の人々と叡智をつなぐという本学のミッションで動くことができるという長所もあります。この軸をより確かなものにしつつ、今後も世界をつなげる教育研究活動を展開していくことができればと思います。こうして活動をしていると、同じような思いで活躍してくれている卒業生に、世界各国さまざまなところでお会いしますが、これほど嬉しいことはありません。

【前編終わり】

【後編】はこちら


杉村美紀 上智大学学長 プロフィール:

総合人間科学部教育学科教授。専門は比較教育学、国際教育学、多文化教育。お茶の水女子大学文教育学部教育学科 、ならびに 東京大学大学院教育学研究科学校教育学専攻を経て、博士(教育学)の学位取得。2002年9月より上智大学にて勤務。この間、上智大学学術交流担当副学長(2014年~2017年3月)、グローバル化推進担当副学長(2017年4月~2021年3月)を兼務した。

また学外では、日本ユネスコ国内委員会委員を2016年より2022年まで務め、運営小委員会委員ならびに教育小委員会委員長として持続可能な開発のための教育(ESD)に関する活動等に携わった。また、JICA緒方貞子平和開発研究所客員研究員として「途上国における海外留学のインパクトに関する実証研究」及び「日本の国際教育協力:歴史と現状」のプロジェクトに、さらに国連大学サステナビリティ高等研究所客員教授としてアジア太平洋環境大学院ネットワーク(ProSPER.NET) の研究交流活動にVice-Chairとして従事している。2022年には、ユネスコの1974年勧告改訂に関するInternational Expert Group 委員 に選出され、改訂原案の作成に携わった。2022年4月から2025年3月まで、日本学術振興会学術システム研究センターの主任研究員を務めた。2024年2月からは、上智大学のユネスコチェア選定に伴い、ユネスコチェアホルダー(UNESCO Chair for Human Dignity, Peace and Sustainability)となった。 (マイポータルより)


著書


〇田中治彦・杉村美紀編『多文化共生社会におけるESD,市民教育』、上智大学出版、2014年。
〇杉村美紀編『移動する人々と国民国家:ポスト・グローバル化時代における市民社会の変容 』、明石書店、2017年。
〇Kayashima, N., Sugimura. M., Kuroda, K., Kitamura. Y. Impacts of Study Abroad of Higher Education Development: Examining the Experiences of Faculty at Leading Universities in Southeast Asia. Springer. 2024.


■世界を舞台にGXを牽引する次世代リーダーを育成 全授業を英語で行う理工学部「デジタルグリーンテクノロジー学科」開設へ

https://www.sophia.ac.jp/jpn/article/news/release/20250221_dgtech/


インタビュー:原田 広幸(KEI大学経営総研 主任研究員)
構成・記事:阿部 千尋(KEI大学経営総研 研究員)

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