清泉女子大学 山本達也学長インタビュー
■ 小ささの中にある美しさを見出す
－－このインタビューシリーズでは、学長にお勧めの本を伺っています。若い人に今、読んでほしい一冊があれば教えていただけますでしょうか。
山本：『スモール イズ ビューティフル』をおすすめします。イギリスの経済学者、アーンスト・フリードリッヒ・シューマッハが1973年に発表したものなのですが、石油ショックが起きたり、その1年前にはローマクラブが「成長の限界」レポートを出したりと、時代的にも興味深い。出版から半世紀たった今、改めていろいろなことを考えさせられます。世の中には、「より速く」「より強く」「より大きく」、それから（コンピューターの世界に見られるような）「より小さく」を目指す、いわゆる「極大化原則」という考え方が染みわたっていると思うのですが、こうした価値観を揺るがされた時に、小ささの中にある美しさ、「スモール イズ ビューティフル」みたいなものに目を向け、社会を見直してみるのもよいのではないでしょうか。
今読むと「いいこと言っている」とか「分かる」と共感する若い人も多いと思います。こうなるまで50年かかったというのも興味深いですね。それから、その間に人類がその内容を活かすことができたのかというと、そうではない。こうした人類の性（さが）みたいなものも確認できて面白いなという気もしています。
－－「スモール」といっても、極大化原理の「スモール」ではなく、「適度なサイズに、美しさがある」という考えのもと、これを積極的に追求するというあり方ですね。興味深いです。
山本：人口の上位1％未満のトップ層って、これまでも大事にされてきましたよね。女性の活躍も増えてきた。
一方で、実は、いわゆる偏差値50前後の「ボリュームゾーン」にいる学生の教育が非常に重要だと考えています。この「ボリュームゾーン」が、もっとも人数が多いわけです。そして、その半分は女性。この女性たちが、「スモール」な場、つまりコミュニティやグループで的確な判断を下し、舵取りできれば、社会は大きく変わるのではないでしょうか。目の前にあるプロジェクトを自分サイズに落とし込んで、ポジティブな効果を生み出していく————本学での教育が生きてくると思います。
－－桐蔭横浜大学学長の森朋子学長も「ボリュームゾーン教育」を提唱されていますが、そこの価値は、今後すごく重要になっていきますね。
山本：学生たちがフィールドワークに出て、みんなで泣き合っている姿を見て「これが、何かの経験になっているのかもしれないな」などと考えながら指導にあたるのが、楽しいです。
どうやったら学生たちのスイッチ入るのか、など日々研究なのですが、本当に興味深いですね。高等教育と実社会をどうつなげていくのか、そのために本学は何ができるか、というところも含めて深化を続けていきたいです。
山本達也学長 プロフィール：
清泉女子大学学長／地球市民学部教授
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士（政策・メディア）。「情報通信技術を中心としたテクノロジーと社会変容」をテーマとして、グローバルなレベルからローカルなレベルまで幅広く研究および実践活動を行う。専門は、公共政策論、民主主義論、情報社会論。
主要業績：
【著書】
・『暮らしと世界のリデザイン：成長の限界とその先の未来』（ 単著）花伝社 2017年
・『多様化する社会と多元化する知：「当たり前」 を疑うことで見える世界』（共編著） ナカニシヤ出版 2017年
・『地域間共生と技術：技術は対立を緩和するか』（共著） 早稲田大学出版会 2023年
・『ポスト・グローバル化と政治のゆくえ』（共著） ナカニシヤ出版 2022年
ほか多数。
【論文・論説等】
・「『デジタル地域通貨×旅』による地域課題解決へのアプローチ」『青淵』第900号、30-32頁、2024年
・“The Relationship between Innovation and Political Systems in Asia: How Do Political Systems Affect the Future of Social Design?” Japanese Society for the Science of Design, Vol.29, No.2, pp.68-72, 2023
・「デジタル時代の地域研究をめぐる分析視角：インターネット・コントロールの歴史的変遷にみる透明化とブラックボックス化」『現代中国』別冊、19-27頁、2023年
・「『与える』を引き出すためのテクノロジー」『青淵』第888号、32−34頁、2023年
・「インターネットは再び民主化の武器になるのか？：変貌する監視体制と市民意識」『中央公論』第137巻、第3号、64-71頁、2023年
ほか多数。
インタビュー：原田 広幸（KEI大学経営総研 主任研究員）
インタビュー＋記事/編集：山下 千智（インデペンデント・ライター／翻訳家）
編集：山口 夏奈（KEI大学経営総研 研究員）
