TOPインタビュー

国際紛争、大規模災害、少子高齢化など、厳しい状況の中で新しい道を拓くための人材育成・社会貢献に資する大学への期待は大きい。真摯に改革に取り組む大学トップの声を紹介する。

清泉女子大学 山本達也学長インタビュー

社会を変える、その第一歩は“自分サイズ”から――建学の精神に根ざした、清泉女子大学の挑戦と未来設計【独自記事】

建学の精神を基盤に『まことの知・まことの愛(VERITAS et CARITAS)』を掲げる清泉女子大学。2025年4月、学校法人清泉女学院との合併を機に、姉妹校との絆をさらに深め、実践的で学際的な教育を強化。新学部設立や革新的なカリキュラム改革で、社会課題に挑む力を育てる同大学の未来を、地球市民学部教授で学長の山本達也氏に話を聞いた。

【目次】
■ 社会問題を「自分サイズ」に落とし込む力を身につける
■ 「手段としての教育」という考え方
■ 「規模の価値」を活かした教育
■ 小ささの中にある美しさを見出す


■ 社会問題を「自分サイズ」に落とし込む力を身につける

山本:はい。母体となった聖心侍女修道会は1877年にスペインのマドリードに誕生しました。同修道会から20世紀初頭に4名の修道女が来日し、旧制高等女学校卒業者を対象とした「清泉寮」を東京に開設、ほどなくして2年制の女子高等教育機関「清泉寮学院」が設立されました。ところが第二次世界大戦が勃発し、戦争が激化。そのためシスターたちは長野に疎開します。敗戦を経た1946年にのちの長野清泉女学院高等学校を、翌年以降に、清泉女学院小・中・高等学校を神奈川県横須賀市に設立。1950年に4年制の清泉女子大学が誕生しました。

国の重要文化財 旧島津家本邸(大学本館)と奥庭

山本:2025年4月に改組を実施し、1学部5学科体制から、2学部2学科体制へ変更しました。新学部のひとつは総合文化学部。古典から現代のサブカルチャーまで日本の表現文化を学ぶ「日本文化領域」、英語圏とスペイン語圏の言語や文化、社会を学ぶ「国際文化領域」、そして古代から現代にいたる日本と世界の歴史を多角的に学ぶ「文化史領域」という3つの領域で構成されています。

もうひとつは、地球市民学部です。この学部には2つの領域があり、国際協力や地域活性化、日本語教育などを学ぶ「地域共生領域」と、メディア・ビジネス・デザイン分野のスキルを身につけながら社会課題の解決のための学びを実践的に行なう「ソーシャルデザイン領域」から選ぶことができます。

山本:そうですね。ただ、今回合併したとはいえ、1973年に清泉女子大学が独立するまで、一つの学校法人だったので、違和感はありません。長野県には姉妹校・清泉大学もありますから、私たちにとって重要な意味を持つ長野と、さらに絆を深めることができるのはとても楽しみです。今後の展開として、東京にある本学で、長野の歴史と観光を掛け合わせた授業を行うことも可能だと思います。その土地の歴史的な成り立ちを深掘りしていく点においては総合文化学部の学びを活かせますし、社会課題の解決に取り組む地球市民学部のフィールドワークを行うなど、学びの幅がより広がるでしょう。

山本:本当にそうですね。2001年に設置された「地球市民学科」は、アメリカのミネルバ大学のカリキュラムを参考にしました。ミネルバ大学は、汎用的な思考と実践の「型」を学ぶ「コンセプト・ベース」のカリキュラムを提唱しています。対になる概念は、具体的な事例を習得していく「コンテンツ・ベース」ですね。一般的な大学では、この「コンテンツ・ベース」でカリキュラムを組み立てています。

私の専門は政治学なのですが、学部時代から考えると、約30年研究を続けているということになります。この間の研究蓄積は相当な量。そして、今後も増え続けます。大学での修業年限は4年なので、コンテンツを基にカリキュラムを作成してしまうと、必ずカリキュラムの過剰化問題が起きます。この4年の間に取得すべき単位数は決まっているけれど、そうしている間にも研究蓄積はどんどん増えていくわけですから。そうなると、やはり「コンテンツ・ベース」では無理がある。これは世界的にも認識されている課題です。これに対してミネルバ大学は、「コンセプト・ベース」という解決策を打ち出したのです。

そこで、私たちも「コンセプト・ベース」を採用し、地球市民学科のカリキュラムを組んでいきました。授業単位ではなく、学科のカリキュラム全体に「コンセプト・ベース」という考え方を導入したのは、日本初だそうです。

地球市民学科では、101のコンセプトを設定したのですが、この中に学生たちがよく使う「目的と手段」があります。私たちにとって、先ほどお話にも出た「学際的な教育」は決して目的ではなく手段です。目的は、リアルな場所に生活する人々の頭を悩ませている社会問題を解決することなんです。

課題解決の101のコンセプト|清泉女子大学

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