佐賀大学 兒玉 浩明学長インタビュー[後編]
■エピローグ:映画を通して世界を知る
--兒玉先生が学務から離れた時の過ごし方について教えてください。
特に趣味もなく、日々を過ごしています。ただ、十数年前から努めて映画を見るようにしました。当時は毎年100本を目標にしていたのですが、最近は1年に20~30本くらい見ています。
見るのは主として洋画です。私が留学していた当時はまだインターネットがなかったため、例えばニュースで報道される米国の選挙や裁判について、その仕組みや背後にある思想がよくわからなかったとしても、簡単に調べる術がありませんでした。しかし、後に映画を通して、「当時、あの人たちの中にはこのような考えがあったのか」とよく理解できたことがあったのです。これがきっかけとなり、洋画を好んで見るようになりました。
--「これぞ私のベスト映画!」と言える作品はありますか。
『ドライビング Miss デイジー』(監督:ブルース・ベレスフォード、脚本・原作戯曲:アルフレッド・ウーリー)です。アカデミー賞作品賞を受賞しています。たわいもない話です。おばあさんが年を取り、車を運転できなくなったので黒人の運転手さんを雇うも、最初はうまくいかず、しかし……というストーリーです。作品の舞台がジョージア州なのですが、私が最初に留学したのもジョージア州でした。「昔のジョージア州って、あんなんだったんだ」と思いながら観ましたね。
実はこの作品、アメリカにいた時に何度か見たのですが、当時は内容を理解しきることができませんでした。差別表現が出てくるので、その意味が全く分からなかったのです。帰国後初めて、「ああ、こういう話だったのか」と理解できました。
--ありがとうございます。本でおすすめしたいものはありますか。
『大学で何を学ぶか』(著:加藤諦三、カッパブックス刊、現在はベストセラーズ社ベスト新書に入っている)をおすすめします。著者の加藤諦三さんは啓発書に類する本を多く書かれている先生ですが、その中でも特に有名な一冊です。
誰にでも読めるとてもやさしい筆致で、非常に含蓄に富んだ内容が書かれています。読む人によって、感じることが少しずつ違ってくるのではないでしょうか。このような考えさせる本を、学生たちには読んでもらいたいと思います。
現代は、調べたらすぐに答えが出ることが好まれる時代です。しかし、そうではなくて、物事を時間をかけて理解する、そうした経験をする必要があると私は思います。加藤先生のこのご著書も、やさしい筆致でずっと書かれているので、はじめは「何を当たり前のこと言っているのだろう」と思うのですが、読み進めていくと、その中にはやはり、「こうあるべきだ」という主張がしっかりとあります。
私が一番印象的だったのは、「大学には一流も二流も三流もない。自分の意識でそれが決まるのだ」という記述です。「一流の大学というのは、意識の高い人がたくさんいるところで、三流の大学では、そのような人がやや少ない。しかし、三流の大学にいたとしても、自分の考え次第でそこは一流の大学になるのだ」、というようなことをおっしゃっています。はじめはやはり、「何を言ってるのだろう?」と思うのですけれども、読み進めていくと、「そういうこと」と腑に落ちる。学生たちにも何かそういう本をぜひ読んでもらいたい、読んで理解してもらいたいと思います。
--本日は貴重なお話をたくさんお聞かせいただきまして、誠にありがとうございました。
佐賀大学 兒玉 浩明 学長
プロフィール
佐賀大学理工学部化学科卒業、同大学大学院理工学研究科修士課程修了、九州大学大学院理学研究科博士課程修了。
専門分野は生物化学。
1988年、佐賀大学に着任。1994年、助教授。2009年、教授。
2013~2019年には東京理科大学総合研究機構の客員教授も務める。
2019年10月、佐賀大学学長に就任。
所属学会:
日本化学会/日本生化学会/日本農芸化学会/日本ペプチド学会/
アメリカ化学会 /アメリカ生化学及び分子生物学会/アメリカペプチド学会
インタビュー:本山德保・原田広幸(KEIアドバンス コンサルタント)
構成・記事 :山口夏奈(KEIアドバンス コンサルタント)アドバンス コンサルタント)