沖縄大学 山代 寛学長インタビュー[後編]
文化・自然・平和 沖縄で学ぶからこそ得られる豊かな経験に最大級の価値あり【独自記事】
沖縄大学 山代寛学長インタビュー。前編では、豊かで平和な沖縄の実現を目指す沖縄大学のバックグラウンドについて、たっぷりとお話を聞くことができた。続く後編では、沖縄大学の「今」に迫る。大学自慢のユニークな取り組みの数々に加え、沖縄で学ぶことの価値を、自身も沖縄県の大学で学んだ山代先生にうかがった。また、医師としてのキャリアを歩んできた山代先生が、現在学長として大学をリードする立場に至るまでにはどのようなストーリーがあったのか。沖縄大学で「今」紡がれている物語に、ぜひご注目ください。
沖縄大学の創設から現在に至る「物語」に迫る[前編]はこちらから
■悩める学生を掬い上げる少人数ゼミ教育
--弊社が実施した全国学長アンケート(2023年度)において、300校を超える大学の学長先生が「メンタルヘルスに問題を抱える学生が増えている」と回答されました。また、何名かの学長先生に「これはコロナ禍の影響でしょうか」とうかがったところ、「コロナ後の方がひどい」とおっしゃる方もいます。全国的な統計としてこうした結果が表われていますが、貴学の場合はいかがでしょうか。
あくまで印象の話ですが、教員同士で話すと、「静かな学生が増えてきた」、「教室も昔のように賑やかではなく、静かだ」という声が聞かれます。ただし、これはコロナ禍において「黙っていなさい」という社会的ルールがあったからかもしれません。
また、本学でも学生生活支援室の利用者は増えているようです。しかしながら、ある意味そこが彼らの「居場所」になっているという見方もあると私は思います。そうした自分の居場所を見つけられた学生は、まだ良かったと言えるのかもしれません。
--支援室のような場があることで、学生たちの心の健康が守られている面もあるのでしょうね。
そうですね。中途退学者が増えたというデータも、本学ではありません。むしろコロナ禍の間は中途退学者が減少していましたので、コロナ禍が明けて退学者が増えないかと少し心配をしていましたが、そうでもないようでほっとしています。
--現在は暫定的に進路を決めて大学に入学する学生が圧倒的に多くなったと言われていますが、それでも中には、「大学に入ってもやりたいことが分からず、学問に励む意欲が湧かない」という学生も一定数いるのではないかと推察されます。
おっしゃるとおりです。自身の将来像や、「大学に行って自分はこれを学ぶんだ!」というビジョンが描けないまま、大学に入学してくる学生は多くいます。そうすると、例えば管理栄養学科やこども文化学科といった、「管理栄養士になりたい」、「学校の先生になりたい」という目標をもって入学してくる学生の多い学科は、やはり退学率が圧倒的に低いのですが……。他の学科は、そこが悩みの種ではあります。
「沖縄大学論」でも、譜久里さんが「挑戦し続けなさい」と伝えてくれたのに対し([前編]参照)、レポートで「夢を持てと言われてもそれができないんです」と書いてくれる学生もいます。また、このように悩みを素直に打ち明けられる学生がいる一方で、なかなかそれが難しい学生も一定数いるはずです。ぐーっと沈んでいってしまうような、そうした学生を掬い上げていく仕組みが必要だと思っています。
このことに関連して、本学の特徴として、1年次から少人数ゼミで学ぶスタイルをとっていることが挙げられます。これが彼らを掬い上げる仕組みの一つになっているのかな、なってほしいな、と思います。
しかしながら、教員のほうも全員が教育面での十分なスキルを持ち合わせているわけではありませんので、「ゼミの先生とうまくいかなくて…」という問題が起こってくるのも、また事実です。反対にこの点は、少人数ゼミの問題点なのかもしれません。
--少人数ゼミは全員必須で1年次からでしょうか。
はい。1年次から4年次まで必須です。
--希望のゼミに入れないこともあるのでしょうか。
あります。そこが問題なのです。やはり人気のゼミに集中してしまっていますね。
--以前のようにいわゆるフンボルトモデルのような、研究を通じて学生を指導するのが大学の理想型とされた時代には、先生のスキルを目当てにやってくる学生もいたと思うのですが……
今、そのスタイルは通用しませんよね。
--そうすると、ファカルティ・ディベロップメント(Faculty Development:大学教育の内容や方法の改善を図るための、教員の組織的な取り組み)といいますか、教育力や教員力のようなものが求められてくるように思います。
そのとおり、そこが大事なのです。だから今後、教育力が十分でない先生は淘汰されていくような構図になってくるのかな、と思っています。
けれども先生方も、研究力だけでなく教育力も問われてきていることを、感覚的に理解していらっしゃるはずです。学生の相談に、親身に乗っておられる姿もよく目にします。多くの先生が、学生のことをきめ細かく見てくださっていると感じております。