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名古屋外国語大学 亀山郁夫学長インタビュー[前編]

英語化とグローバル化

 亀山:アメリカ人にとっての第1外国語はスペイン語です。しかし、スペイン語ですら、学ぶ人はすくないでしょう。アメリカ人など英語のネイティブは、日本人が莫大なお金と労力をかけて費やしている英語学習のための時間を、学問そのものの研究や思考に費やすことができます。政治やビジネスの場でも、相手が英語を使ってくれるので、常に本業に集中できる。だからこそ、これは危険なことでもあるのです。英語という覇権言語を話すがゆえに、英語話者は自信過剰に陥っている。つまり、傲りです。 

私たちは、外国語を学び、それを通じて外国文化を学ぶことで、批判的思考をはぐくみます。そして、外国語学習は、多文化共生の理想の原点です。 

プーチンがウクライナに戦争を仕掛け、国際世論的に語りにくくなっているのですが、あえて言うと、プーチンなど愛国的ロシア人にとっては、(米欧流の)民主主義なんて何?という文化的誇りがある。民主主義よりも大切にしているものへの誇りがあるからこそ、ゆるぎない自信をもっている。それが良いか悪いかを別として、ロシアに対峙するには、そういった文化的背景を理解しなければならない。国境が全てという論理で戦争を単純化するのはよくない。歴史的に屈辱の経験をもたないアメリカ人にはロシアのことは、なかなかわからないと思う。ロシアの精神性をよく理解した立場の人が交渉に入らないと難しいでしょうね。

 亀山:トランプ政権下のアメリカでは、大統領自らがフェイクニュースやデマを発信し続けたため、嘘が目的達成のための手段に利用され、あまつさえそれが正当化される状況になってしまいました。その先に起こったのがワシントン議事堂乱入事件です。アメリカがこのような状況に陥っているのは、英語という特権的な覇権言語に胡坐をかいていた傲りが、多文化共生の理想や批判的知性を蝕んだからです。バイデンに政権が移譲され、このような独善的文化は改善されたかと言うと、なかなかそうは思えません。


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