武蔵野美術大学 長澤忠徳 理事長インタビュー

長澤理事長:その通りです。自動車産業の商品開発では、膨大な市場調査からデータを算出しますが、こうした数字データを見ただけでは、デザイナーもデザインすることができません。私は、そのデータからターゲットユーザーのライフスタイルを読み解き、雑誌の切り抜きで「ビジュアルボード」を作る仕事をしていました。それを見せた瞬間、デザイナーの顔色が変わる。「ああ、こういうことか」と。言葉を超えてコンセプトが伝わる―これが「ビジブルな知性」です。

昔の食堂の入り口に食品サンプルが並んでいたのも同じ理屈ですよ。メニューの文字だけでは分からないから、具体的な「モノ」で見せていた。この身体性を伴った知性こそ、生成AIには代替できない人間的価値の源泉です。

インタビューに答える長澤理事長

これからの教育で最も大切なこと

長澤理事長:二つあります。一つは、教員が「待つ」こと。すぐに答えを教えるのではなく、学生が現場でもがき、悩み、自分なりの答えを見つけ出すまで、彼らの試行錯誤を近くで見守り、耐える。教員のこの姿勢が、学生の真の能力を育みます。

もう一つは、「がんばっていれば、誰か必ず見ている」という感覚を学生に持たせるということ。私自身、ロンドン芸術大学で名誉博士号をいただいた時のスピーチでも話したのですが、授与された際、「見てくれている人がいた」と強く感じたのです。孤独な挑戦に見えても、仲間が見てくれている、先生が見てくれている。その共同体の中での切磋琢磨こそが、人を成長させるのです。

(インタビュー終わり)


長澤忠徳 理事長 お勧め図書

インタビューの最後に、長澤理事長のお勧めの本を伺いました。

遠藤大輔 著『デザイン、学びのしくみ』2023年,BNN 刊
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多くの著名なクリエーターを輩出しているニューヨークの名門美術大学 Pratt Institute の最優秀教員に選出された遠藤大輔さんが、明かされてこなかったそのデザイン教育メソッドをリアルな事例とともに理論的背景を踏まえて解き明かした好著。

稲葉裕美 著『美大式ビジネスパーソンのデザイン入門』2024年,翔泳社 刊
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武蔵野美術大学デザインラウンジと共同でデザイン経営の学校を立ち上げた稲葉裕美さんの1万人をこえる指導実績からの知見をもとに書かれた、ビジネスパーソンのデザインのモヤモヤを解消するベストセラーの入門書。

朝山絵美 著『ビジネスで成功する人は芸術を学んでいる』2024年,プレジデント社 刊
https://amzn.asia/d/7vvWrxj
工学修士の学位を持ち、国際コンサルティングファームで活躍してきた著者の朝山絵美さんは、クリエイティブの本質を求めて、武蔵野美術大学大学院に進学し造形を実体験。新たな知見を得たその博士研究をまとめた必読の一冊。


 

■ 長澤忠徳(ながさわ・ただのり)氏

●経歴:1953年富山県生まれ。1978年武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業。1981年Royal College of Art, London修士課程修了。1984年富山県イメージディレクター(1984-2002年)。1986年有限会社長澤忠徳事務所設立、代表取締役就任。1987年Design Analysis International Ltd.(London)設立に参加、日本代表。1993年東北芸術工科大学デザイン工学部助教授。1999年武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科教授就任。2015年武蔵野美術大学学長就任。2016年Senior Fellow of the Royal College of Art.
2023年11月学校法人武蔵野美術大学理事長就任。2025年7月17日英国国立ロンドン芸術大学から名誉博士号を授与される。
●専門分野:カルチュラル・エンジニアリング、デザインコンサルティング、デザイン論、デザイン教育。これまでに民間企業、地方自治体、政府のデザイン顧問や行政広報、オリンピック関連の各種委員、グッドデザイン賞選定審査員等、デザイン振興活動や国際デザイン情報ネットワーク構築等に尽力、海外大学の国際諮問委員等を務める。
●現職:社会福祉法人恩賜財団済生会理事、公益社団法人日本広報協会理事。
■ インタビュアー:荻原 実紀(おぎはら・みき)

株式会社コトヴィア代表取締役 ブランド戦略コンサルタント。CI(コーポレート ・アイデンティティ)およびブランド戦略、教育機関のブランディング支援を専門とする。企業・大学・行政・一次産業など多領域のブランド刷新、理念構築、ブランディング・クリエイティブを手がけ、人々の心に響く感性デザイン経営を提唱している。本インタビューではブランド視点から、武蔵野美術大学の理念と実践、その未来像を探っている。

記事執筆: 山下ちさと(フリーランスライター)
インタビュー・編集: 原田広幸(KEI大学経営総研)

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