甲南大学 中井伊都子学長 インタビュー[後編]
■国際的人権意識の涵養
--昨今、国際的な人権意識を涵養していくことが社会的な課題となりつつあります。先生のご専門分野でもあられるかと存じますが、この点について、大学でなさっている取り組みはございますか。
いきなり国際人権保障の観点から人権問題について考えるのは容易ではありませんが、そもそも差別というのは、異質なものに対する違和感や恐怖に端を発しているのではないかと思います。
見かけの違いや、使用している言語の違いだけで異質だと決めつけてしまう原因は、コミュニケーション不足に他なりません。事実として、外国の方と実際に話をしてみると、我々日本人と何ら変わりない心を持っていることが分かります。また、見かけが違うのは日本人同士でも同じです。異質さと結びつくものではありません。
自身が留学へ行くでも、日本へ留学に来てくださっている留学生の方と交流するでもよいですが、さまざまな国の方と関わり合いを持ち、見かけや使用言語が違っても、ものの感じ方、心根の部分は自分と共通しているのだという実感を、学生たちには持ってもらいたいと切に思います。「思っていることは同じなんだ」、「同じものを美味しいと感じるんだ」という些細なきっかけからで構いません。相互に人として認め合い、そこに人間としての違いは無いと気がつくことさえできれば、差別する意識もなくなっていくのではないでしょうか。
--頭で理解するだけではなく、経験して、感じて、「ああ分かるな、同じだな」という気付きが重要なのですね。
そうですね。例えば、私は授業で「人種差別撤廃条約における国家の義務とは」というテーマで講義をしておりますが、単に受講しているだけでは、残念ながら、身になってはいないかもしれません。人種差別撤廃条約が機能しているまさにその現場を経験することに、もっとも重要な意味があると私は思います。
--そうすると、最初の話にもつながってきますね。コロナで大打撃を受けたというのは、こういった実感を持つためのリアルな空間が失われてしまったということになりますか。
その可能性がありますね。本当にかわいそうだったと思います。
■甲南大学 将来構想と学生への期待
--最後の質問です。甲南大学の学長としての、将来に向けた構想や、学生に期待することを教えてください。
これまでお話してきたこととも重なりますが、18歳で自分の将来を決め切って大学に入学してくる学生は、なかなかおりません。学長としてはやはり、そんな彼らが自分の可能性や個性に気がつき、大きく成長を遂げ、卒業していけるような大学を目指したいです。
その点において、本学には、「彩り教育」や教員の経験をしっかりと伝えられる場といった、学生たちの成長を促す仕掛けがたくさんあります。加えて、本学はOB・OGの方の母校愛がとても強いため、その方々のお力を借り、彼らをロールモデルとして、甲南大生の成長した姿を在学生にしっかりと見せていきながら、選択肢のたくさんある大学をつくっていきたいです。そういう意味でも、彩り豊かな大学にしたいと考えています。
また、国際法を専門とする一教員としては、学生たちの目線をもっと外部(海外)へ向けさせたいです。私の講義では最初の10分間で必ずニュース解説をするのですが、正直なところ、ぽかんとしながら聞いているだけで、あまり関心を持っていない学生もおります。今の時代、とても簡単に海外や社会の情報を入手できるにもかかわらず、見ていないし、見ようともしないのです。
だからこそ、今の若者には、もっと外部に関心を持ち、自ら目を向けることで、外部で起こっていることが、自身の生活と決して無関係でないことを理解してほしい。遠い世界のことが、自分の日常生活に直結するのだという「実感」を持ってほしいと思います。そして、この「実感」を得るためにも、一度は日本の「外」を経験してほしいです。