関西医科大学 木梨 達雄学長インタビュー[中編]
■ 中編エピローグ:海外との協調を支える「国際性」とは
さまざまな標語において、「サステナビリティ」という言葉が用いられるように、現在、いかに持続的な成長を続けていくかが課題となっています。自国主義に固執すると成長が停止することは、各国がそれぞれの形で経験してきたことからも明らかです。つまり、この課題を解決するには、国際的な協調が不可欠だと言えるでしょう。
海外との協調にあたっては「国際性」が求められますが、「国際性」とは一言で言うと、進取の気性があることだと私は考えます。新しいものをどのようにして求めていくのか、そのチャンスを国境を越えていかに得たり提供したりするのか。それが「国際性」です。英語が話せるだけでは「国際性がある」とは言えません。
つまり私にとって、英語を学ぶことはあくまでも方法であり、それ自体が目的ではないということです。「国際人になるために英語が必要になるのならば、英語を勉強する」という態度だとお考えください。海外で自分の考えを表現するときに、スマートフォン等を活用してシームレスかつ完璧にやり取りができるのであれば、必死に英語の勉強をする必要はないと思います。その時間を、専門の勉強に充てれば良いです。しかし、今はまだそこまでは望めないため、自分でも英語を話せるように勉強する必要があります。またその際には、ただ話せるだけでなく、説明の合理性や共感を呼び込むパッションを兼ね備えたコミュニケーション力が求められることも忘れてはなりません。
そのため、「単に授業を英語で行なえばそれで国際性が育つか」と言われると、私は本末転倒だと思います。むしろ日本語で話しても良いけれども、国際的な視野で物事を考える癖をつけることのほうが重要です。それこそが自分の中の「国際性」を生む母体となります。そして、自身の「国際性」が刺激され、実際に海外へ行って学んでみようという気持ちになってくれれば、それは「めっけもん」。そうした教育効果をねらっていきたいです。
つまり、海外と協調するにあたって鍵となるのは教育なのです。学生のうちから国際的に交流し、さまざまな人と接し学んでいく中で、「国際性」が刺激されれば、社会に出てからも国際的な協調の姿勢が、地下水脈のごとく続いていくことでしょう。
本学がこれを成功させるためには、新たな施策に一つひとつ取り組んでいく必要がありますが、現状各所でその芽が出ており、成果も得られてきているので、私としては「これが正しい方向かな」と感じています。
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関西医科大学 木梨 達雄 学長
プロフィール
山口大学医学部医学科卒業、京都大学大学院医学研究科 博士課程修了。
免疫学・分子生物学を専門とする医師、医学博士。日本免疫学会評議員。日本分子生物学会員。
京都大学、東京大学で助手として勤務したのち、1999年より教授として京都大学で教鞭を執る。2006年に関西医科大学に着任、2016年、研究担当副学長、2023年に同学学長に就任。
これまでに100本以上の英文論文を発表し、現在も研究担当副学長を兼務し精力的に研究支援活動をおこなっている。
科学技術振興機構 CREST「接着制御シグナルの破綻と自己免疫疾患」、厚生労働省「IgG4関連全身硬化性疾患の診断法の確立と治療方法の開発に関する研究」等にも参加していた。
2005年、第8回日本免疫学会賞受賞。
インタビュー:満渕匡彦・原田広幸(KEIアドバンス コンサルタント)
執筆・編集 :山口夏奈(KEIアドバンス コンサルタント)