関西医科大学 木梨 達雄学長インタビュー[前編]
■ 関西医科大学の2つのビジョンーー総合医とフィジシャン・サイエンティストの育成
3学部体制となった今、大学としてさらにどういうところを目指していくのか、すなわち、大学のビジョンが非常に重要となっています。
本学のビジョンのひとつは、地域の中核としての医療人を育成することです。例えば医学部であれば、総合医といわれる、いわゆる地域医療に貢献する人材を一定数育成しなければなりません。看護師についても同様に、専門看護師のみならず、一般的な看護師の育成も不可欠です。
他方、先進医療を行なう附属病院を持つ大学としては、そうしたコアとなる人材だけでなく、高度医療を推進する人材の育成も非常に重要となります。一口に「高度医療を推進する人材」と言っても、高度医療を実践する医師だけでなく、彼らを養成する指導者や高度医療を開発する研究者など、育成すべき人材はさまざまです。しかしこの点こそが、「高度医療を推進する人材の育成」という大学のミッションにおける重要なポイントだと私は考えます。
私は医学部を卒業後、研究畑をずっと歩んできましたが、この30年間で臨床医学は大きく発展を遂げました。しかし、臨床医学の発展は、基礎研究の進歩無くしてあり得なかったと私は思っています。
そうは言いつつも、私個人としては、ただただ医学研究の面白さに魅了されて、基礎研究の道に進んだのが正直なところです。自分たちのやっている研究が臨床の発展に大きく貢献するとは露ほども思っていませんでした。けれども今振り返ってみると、30年間の基礎研究の進歩が、現在の臨床医学を支えている、先進医療を形作っていると気がついたのです。
これは逆説的に考えることもできます。私は学生たちに言うのです。「将来の医療が見たければ、今の基礎研究を実際に見て、体験してみなさい」と。「今後どの分野が伸びていきそうか」などという高みの見物をしているのではなく、実際に今の基礎研究を体験してみる。そうすることで、現代の医学がどのように進歩しているのかが、経験に基づいた知識として身につきます。そして結果的に、将来どの分野が伸びていくのかが、自分の実感として分かるようになるのです。これは私の偽らざる気持ちです。
他方、日本の科学力低下という大きな社会的問題とともに、医学研究のレベル低下も指摘されています。さらに、医師不足である現代の状況下において、高度医療人材をいかに育成していくかが、国としても喫緊の課題となっているのです。
以上を踏まえると、やはり今後の本学のミッションとしては、患者に寄り添い、地域医療に貢献する総合医の育成のみならず、探索的で探究心を持った「フィジシャン・サイエンティスト」、すなわち臨床も行なう研究医を一定数育成していくことも重要となります。このミッションを達成するために、教育をどのように推進していくべきかを、研究医養成コースを設けて運用しながら模索しているところです。