関西医科大学 木梨 達雄学長インタビュー[前編]
■ チームスピリッツの養成をめざしてーー3学部合同授業の実施
再び本学の歴史の話となりますが、医学部のみの単科大学だった時代、学舎は、京阪線沿線の滝井駅に専門部が、牧野駅に教養部がありました。つまり、2か所に分かれて教育が為されていたのです。
この状態が長らく続いており、私が入職した2005年あたりも、経営的に苦しい状況でした。この状況を打開するには、病院経営を立て直し、経営的な基盤を安定させることが非常に重要であったため、そこからの約10年間で、さまざまな計画を進めてきました。
まず2006年に、最新の設備を備えた新たな附属病院が、基幹病院として、ここ枚方の地に開院されます。これが地域医療の中核として大きく発展し、今では枚方市になくてはならない存在となっています。
それからやや遅れて2013年に、この枚方学舎が開設されました。ここにおいて、初めて附属病院ならびに医学部の専門部・教養部が一か所にまとまります。これが起爆剤となり、教育・研究・臨床が大きく伸展し、経営的な基盤も安定していったのです。まさしく本学のターニングポイントのひとつであったと思います。
--地理的な関係、人の動きというのが重要なのですね。
医療経済面からお話しますと、「北河内医療圏」という、大阪府の北側、淀川を挟んで少し南側の、枚方、交野、寝屋川、守口、門真、大東、四条畷を含む、およそ110万人から150万人ほどのエリアがあります。
このエリアは当時、いわゆる医療の空白地域で、あまり大きな病院が整備されていませんでした。その地にしっかりとした基幹病院と系列の3附属病院を、利便性が高い京阪線沿線の駅近くに建設したことが功を奏し、大学にも経営的な安定をもたらしたのです。
経営的に安定してきますと、大学としてはもちろん、教育・研究に資金を投資する方向へと向かっていきます。医師だけでなく、看護師の育成も医療には不可欠ですので、2018年に、4年制の看護学部及び大学院看護学研究科を新設しました(それ以前には3年制の附属看護専門学校があった。2021年閉校)。
現在、高度医療を推進する上では、「専門看護師」と呼ばれる、医師と同程度の高い技能を持ち、対等に協働する人材が求められています。そのため、修士課程や博士課程のある看護学部が非常に重要となっているのです。このことに鑑みると、看護学部の設置と同時に大学院も設置できたのは、ベストな判断だったと思います。
幸いにして、この看護学部も非常に良い成績が続いています。また、看護師と保健師の資格は100%取得でき、一部選抜者は助産師の資格も取得可能であることが、本学部のカリキュラムの特徴です。この3つの資格が取得できる看護学部は、なかなか無いと思います。
--それらの資格は学部4年間で取得できるのでしょうか?
はい、学部4年間で取得できます。その上に修士課程と博士課程があり、専門看護師を目指す学生は修士課程に進学するかたちです。
補足として、先ほども少し申し上げましたが、医学部と看護学部ではより多様な人材を獲得するために、2023年度から学費を値下げしました。特に医学部は大幅に下げ、私立大学医学部では3番目に安くなっています。さらに、奨学金制度も充実させて、今まで授業料が高くて受験できなかった学生にも門戸を開きました。
--素晴らしいです。リハビリテーション学部についても教えてください。
リハビリテーション学部はやや遅れまして、2021年の開設です。理学療法学科と作業療法学科の2学科があります。
日本では現在、生涯にわたって自ら活動できるQOL(Quality of Life)を維持することへのニーズが非常に高まっています。そのニーズに応えるべく、新学部を開設し、優秀な先生方を集めました。現在は、さらなる高度医療人材の育成を目指して、修士課程の設置に向けた準備を進めています(修士課程は2025年設置予定)。今年度末で初めて卒業生が出て、国家試験を受け、就職していくというタイミングです。我々教員としても、しっかりとした成果を出すべく、日々頑張っています。
--先ほど、「医療の世界ではチームスピリッツが重要」とのお言葉がありました。このことと、貴学に医学部、看護学部、リハビリテーション学部の3学部があることには関係があるのでしょうか。
3学部編成になったことで、教育も3学部合同で行なうことが当然考えられます。医療の場では「多職種連携」という言葉がよく言われるように、医師、看護師、理学療法士や作業療法士、薬剤師といったメディカルスタッフの連携が非常に重要です。そうしたチーム医療への理解を深めてもらうべく、3学部合同の授業を、1年生と4年生で実施しています。学生の段階で、職種を越えた顔合わせをすることがねらいです。
私もこの4月に、新入生およそ350人を対象とした合同合宿に参加しました。合宿ではくじで学生を各テーブルに割り当てます。そして3学部の学生が交ざりあい、話したこともない人同士で、例えば「良い医療人とはどういう人か?」など、さまざまなテーマでディスカッションをしたり、レクリエーションをしたりして、学部を越えた交流を促しています。
--入学して最初にそのような機会があると、きっとその後も学部を越えた交流が継続しますよね。
傍から見ていても、非常にわくわくします。もう彼らの目がキラキラ光るんですよ。それぞれ目指す職種は違うけれども、自分と同世代の異なるバックグラウンドを持つ人同士が、同じ医療の現場を共有し、協働していく。そんな未来が彼らには見えているわけです。
そして実際に話をしてみると、やはり多様な意見が出てきます。そこで学生たちは、立場ごとに医療に対する見方が異なることに気がつくのです。そうすると、やはり目がキラキラ光ります。このことこそ、学生たちに本当の意味で「学びの楽しさ」を伝えることができた、確かな成果ではないでしょうか。こうしたところから学びへのモチベーションが高まっていくのだと思います。
また、4年生ではかなり専門職に近くなりますので、本学の3学部に加え、摂南大学薬学部の学生さんにも加わっていただき、多職種連携の演習科目を履修するカリキュラムを組んでいます。2大学が互いに補い合い、ひとつの科目を作っているのです。
--他大学とも連携していらっしゃるのですね。
薬学部を持っている摂南大学さんも、やはり多職種連携を意識した教育を行ないたいとお考えで、本学の取り組みをご覧になり、「参加させてもらえないだろうか」とお声掛けをいただきました。本学には薬学部がありませんし、我々としても非常にウェルカムなお申し出でしたので、「是非一緒にやりましょう!」と喜んでお受けした次第です。このように、3学部体制となったことが良い意味で学生の刺激となり、教育の質の向上にも効果を発揮していると思います。