
共立女子大学・共立女子短期大学 学長 佐藤雄一氏インタビュー:変革する社会における「共立リーダーシップ」の真価と、女子教育の未来
2. 国際化の再定義:数値目標を超えた「異文化理解」の本質
大学の「国際化」はもはや単純な留学生数の多寡を競うレースではない。佐藤学長が提唱するのは、物理的な移動を超えた「知的・構造的な国際化」である。全単位の半分以上を英語で履修する「GSEプログラム」の設立や、教職員の多様化といった戦略の根底には、国際化を「自分を客観視するメタ視点の獲得」として定義し直す構想がある。
インタビュアー: 国際化において、貴学は中期計画で数値目標を掲げつつも、単なる「数」の論理に留まらない独自の深みを目指しているように見えます。特に10年前に始動した「GSE(Global Studies in English)プログラム」は象徴的ですね。
佐藤: ええ。卒業単位の半分にあたる62単位を英語で学ぶGSEプログラムは、本学の国際化のエンジンです。ネイティブ教員を多数配し、密度の濃い環境を整えています。しかし、私が重視しているのはその数値以上に、大学組織全体の「背景の多様化」です。職員の研修制度や、異なるバックグラウンドを持つ人材の受け入れを通じて、大学そのものを多角的な視点が交差する場にしたいと考えています。
インタビュアー: 昨今はグローバル化への反発や内向きな志向も指摘されますが、あえて今、国際化を推し進める戦略的意義をどこに置いていますか。
佐藤: 物理的な国境以上に、心理的な壁をどう超えるかが問われています。国際化の本質は、異質な他者と出会うことで「自分を客観視するメタ視点」を獲得することにあります。外の世界を知ることは、ひるがえって自分の立脚点を問い直すこと。この知的柔軟性は、逆風の時代だからこそ不可欠なリテラシーです。
インタビュアー: その「外からの視点」という議論は、学長のご専門である日本語学の知見とも鮮やかにリンクしますね。
3. 日本語学とメタ認知:自己を客観視するための「外の視点」
言語教育は、単なる情報の伝達手段を学ぶ場ではない。佐藤学長によれば、それは自己の思考回路を構造化し、固定観念から脱却するための「知的訓練」の場となる。日本語を学問的に捉え直すプロセスで生じる「母語話者の直感」と「学習者の論理」の対比は、学生たちが自らの文化をメタ認知するための極めて有効な装置となっている。
インタビュアー: 学長は長年、日本語学の視点から教育を見つめてこられました。言語を学ぶことが「メタ認知能力」を養うという点は、具体的にどのような場面で実感されますか。
佐藤: 面白い現象があります。日本人の学生は、留学生が書いた文章を見て「何か不自然だ」とは感じますが、その理由を論理的に説明できないことが多い。一方で、日本語を外国語として体系的に学んだ留学生は、文法構造を明快に説明できます。「当たり前だと思っていた自分の言葉」が、外側からはこれほど緻密なロジックで見えているのかという気づき。これがメタ認知の第一歩です。
インタビュアー: アニメを入り口に日本語を学ぶ留学生も増えていますが、彼らとの対話は日本人学生に何をもたらすのでしょうか。
佐藤: 彼らの新鮮な視点は、日本人学生にとって「内なる国際化」の機会になります。アニメというサブカルチャーを介した文化理解の可能性は侮れません。自国の文化を「外の論理」で再定義される経験こそが、大学での学びにおける「知の総合化」を促しています。
インタビュアー: 言語の構造的理解は、現代の避けて通れないテーマである「生成AI」との向き合い方にも直結しそうですね。
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