運動部学生が言語能力を身に着けるとどうなるかーーー文章指導の意義と方法

Q:運動部学生の課題は「学業との両立」だけではなく、いかにして「スポーツと学業との相乗効果」を出していくかを追求することが重要だと?

山本:運動部学生がスポーツを専門とする学部に所属すれば、学業の重要性は理解しやすいだろう。しかし、多くの大学では、運動部学生は法学部や経済学部など、スポーツとは無縁の学部に所属しているのが現実である。しかも、それは自分で選んだわけでもない。こうして多くの運動部学生は、学業の意味を競技と関連付けて意識できず、授業は「苦行の時間」などと否定的に捉えがちになる。だからこそ、私は、スポーツを専門としない学部において、正課授業の中にスポーツと学業の相乗効果を意識させ、実際に相乗効果を出すための教育プログラムの導入がとても大事だと考える。

こうしたことは、運動部学生だけを対象とする授業を導入しなくても実現できる。スポーツ学生と一般学生が同じ授業の中でともに学び合いながら、経験の言語化能力を伸ばすプログラムは、様々な授業の中で実現可能なはずだ。ライティング(文章表現)科目の一環として、「経験を表現する」テーマを取り入れてもよい。キャリアデザイン科目でもよいだろう。競技力には、体力や技術力だけでなく、レジリエンスやセルフマネジメントといったスキルも大きく関係する。こういったスキルを様々な授業で高めることができれば、競技と授業の相乗効果がより期待できるだろう。

Q:言語能力が部活動と学業の両方を結びつけるポイントとのことだが、ライティングやレポートの書き方など、どのように指導するのがよいか?

山本:文章作成において問われることは、前述のように2つある。1つは「知識をもとに考える」ことで、もう1つは、「経験を言語化する」ことだ。「知識をもとに考える」レポート指導のポイントは、「書く前に行うべきこと」と「書いた後にも行うべきこと」を意識させることだ。

レポートはいきなり書こうとしても、なにも書けないのが普通だ。レポートを書くためには、語彙力や文法的知識が指摘されがちだが、実は、情報を集め、その情報を分析し、その中から課題を発見し、その上で自分なりの言いたいことや解決策を構想し、それを表現に結びつけていく、という一連のプロセスが求められる。「文章を書く」という作業の前に、段階的に踏むべきプロセスがある。それが「知識をもとに考える」という意味だ。

私がこれまで手がけてきた文章表現科目では、資料を読んで、それをグループで議論して内容を確認したり、違う資料を突き合わせてみたりしながら、ディスカッションを行なうことに重点を置いてきた。書くための材料が十分蓄積された上で、文章のアウトラインを作り、それをお互いに点検しあったりすることが、書くという行為につながるのである。

また、文章を一度書いたからといってすぐに提出させてはいけない。実際に我々も原稿を書く際には何度となく推敲するはずだ。授業でも、いったん書いた後の推敲作業に時間をかける重要性を理解させる必要がある。こうした推敲や修正のプロセスにも、「ピアレビュー」などの協同学習は有効である。

レポート作成にはこれらの一連のプロセスが不可欠であるからこそ、授業では、アクティブラーニングやグループワークが必須となる。レポート作成が苦手な学生に対しては、上述のプロセスを、宿題などにおいても仲間と一緒に取り組むように指導するとよいだろう。これは、他人のレポートをコピペすることとは全く異なる。こうして、書くことにより、「知識をもとに考える」能力(=リテラシー)が養われる。

その一方で、文章表現科目では、前述のように「経験を言語化する」スタイルの文章を書くことも重要だ。そうすることで、「経験から学び成長する」能力(=コンピテンシー)もバランスよく育成できる。

運動部学生には、彼ららしさと豊かなスポーツ経験があり、それを題材にして文章表現を行う機会があることは、彼らの自己肯定感を高めることにもつながるだろう。それは彼ら自身が、正課授業の重要性を実感し、デュアルキャリアに意義を見出していくことにつながっていくのではないだろうか。

*山本氏の授業をもとに作成した教材はこちら
『スポーツ探究 ことば入門』 https://univas.keiadvanced.jp/lineup/20220115-629/


構成と記事:原田広幸(KEIアドバンス コンサルタント)

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