オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

東洋大学 入試部長・加藤建二氏 講演

目指す教育の実現のために  東洋大学の入試改革と結果

ここからは、「目指す教育の実現のために」ということで、本学の入試改革と、その結果についてお話しします。

我々の入試改革は、志願者数を増やすことに力点を置いているわけでは全くありません。東洋大学が目指す教育を実現するためには、本学の教育理念に適する学生の存在が必要不可欠です。それが実現できるような学生に入学していただく、というのが我々入試担当のミッションであり、そのために様々な方策を講じてきました。この部分は、大学によって考え方が違うと思いますので、ここでのお話は東洋大学の事例としてお聞きいただければと思います。

本学の課題を4点挙げました。このうち課題1から3が十数年前からのもの、課題4が最近のものになります。これらに対してどのような対応をしてきたのかをお話ししていきます。

まず課題1です。2010年前後には、本学にも募集が厳しい学部・学科がありました。当時は正直なところ、学ぶ意欲・学ぶ力を持った受験生を獲得できていなかったと思います。大学が発展するためには、入学していただく学生が変わらないと難しい、と考えていました。

課題2は、2014年にスーパーグローバル大学に採択されたことで、大学全体で英語力を上げていこう、ということになりましたが、当時の入試の英語の試験ではリーディングの力しか測れていませんでした。

課題3は、高校時代に数学を十分学んでいない文系の学生が多いということです。今後社会人になるにあたっては、プログラミングをはじめとして、数学の知識や考え方が当然必要になります。文系だから数学はやらなくてよいという時代ではない、ということで、この点も対策していこうと考えました。

そして課題4は、ここまで挙げたような改革によって、一般選抜入学者の学力は上がりましたが、年内入試の学生の入学後の基礎学力不足が顕著である、というのが大学全体の課題でした。これらの課題に、我々がどのように対応してきたかについてご紹介します。


まず、学ぶ意欲と力を持った受験生を獲得するために、2011年から「多科目型入試」を導入しました。改革前の問題点として、2008年度の一般入試における志願者と入学者の高校ランクを示しています。この「高校ランク」は、ある企業が作った高校の大学進学実績による20段階のランキングです。東洋大学は、このランク1から10の高校を学力上位校と位置付けて、そこからの志願者・入学者の推移を毎年ウォッチしています。

2008年は、志願者・入学者とも大体3分の1が上位校からで、3分の2はそうでない高校からでした。高校の学力レベルで全てが決まるわけではありませんが、学内に理解してもらうために、このような集計を全学部・学科で作成して、継続的に確認しています。

多科目型を導入した理由として、地方の国公立大学志望の受験生が受けやすい試験にしたい、ということがありました。国公立大学志望の受験生は、国公立に合格すれば、当然そちらへ行ってしまいます。ただ、当時の本学は、ちょうど地方の国公立大学と併願しやすいポジションにあったので、多科目型入試は導入する価値があるのではないか、ということで、始めることになりました。

この多科目型入試について初めて高校の先生方向けの説明会でお話ししたとき、一番前にいらっしゃった先生に、文字通り鼻で笑われた、という苦い記憶があります。
ただ我々としては、これを続けていくことで必ず学生が変わると考えていたので、まず2011年入試からセンター利用入試で4科目型を導入し、2015年入試からは一般入試にも数学を含む4科目型を導入しました。さらに2016年からはセンター利用入試に5科目型を導入しています。

多科目型入試導入の効果です。スタート直後の2012年度は、志願者数が762名で、占有率は1.2%。入学者は45名で、こちらの占有率もわずか1%から始まりました。そこから10数年かけて、2025年度は10,000名を大きく超える志願者に来ていただき、入学者数も全体の22.6%、5人に1人以上は多科目型の受験者です。

教員に聞くと、このような学生にはやはり秀でたところがあるので、ゼミに1人2人でもいることの影響は大きく、良い方向に変わってきているということです。 また、先ほど地方の国公立大学との併願の話をしましたが、全国からの志願者数も大きく増加しています。これも当初の狙いに対する効果が表れています。
こういった良いエビデンスを示すことで、全学的に「優秀な学生が入ってくるのなら、多科目型を進めよう」という方向になっています。

これにあたっては、学部の教員は入試のプロではないので、入試部がいろいろなデータを駆使して、多科目型に志願者を集めるために、最初は5科目型と4科目型の合格ラインを意図的にある程度下げ、倍率もなるべく1倍台になるように合格ラインを設定しました。こうして5科目型・4科目型の倍率をある程度低くしておけば、志願者が集まってくることになります。我々は「入試を育てる」という言い方をしていますが、このような試みをずっと続けています。

先ほどの20段階の高校ランクで言えば、2008年にはランク1から10の高校からの入学者は30%前後でしたが、2025年には全入学者数中の割合が55%を超えており、このデータからも学生がかなり変わったことがわかると思います。
学生の変化を一番感じているのは、実際に教えている教員です。こういった学生が入ってくることによって、教員が教育を面白いと思ってくれることは、非常に良い循環であると思っています。

ここまでお話ししたのは一般選抜についてですが、年内入試では、多面的・総合的な人物評価の入試を行っています。
一例が、2018年から自己推薦・学校推薦入試で実施している文学部哲学科のディベート型入試です。 これは、短い文章の読解と立論、プレゼンテーション、ディベートという流れの試験です。ハードルが高いので志願者はあまり多くありませんが、この試験は、哲学科としてほしい人を選抜できていると考えています。

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