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河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―地理編―[前編]

■ 地理学における重要テーマと作問上のジレンマ -共通テスト『地理総合,地理探究』結果分析⑤

問うべき重要テーマでありながら、学力識別に足る問題として成立させるのが非常に難しいと言われているのが第3問 問6。日本のある沿岸地域における津波への備えについて、GISを用いた分析結果から推計できる値を判定させる問題です。

そもそも、このような問題が出題されている背景には、入試を超えた地理学上のミッションがあると私は考えます。

地理学に携わる人たちは、「地理学には何ができるのか」「地理学が果たすべき役割とは何か」を真剣に考えています。例えば、地域の災害リスクを明らかにし、生活に潜む危険を人々に通知すること。あるいは、被災した際にどのように行動すべきかを、国民が自ら考え、備えられるように啓蒙していくこと。こうした防災・減災に対するアプローチは、地理学が果たすべき重大なミッションです。

また、専門家がデータを分析し、その結果を人々に伝えていくだけでなく、国民自らGISを活用できるようになり、得られた結果を自身の生活に反映していけるような環境を作っていくことも、地理学の目標として挙げることができます。

そうした目標があるからこそ、第3問 問6のような問題が共通テストで出題されているのではないでしょうか。学習指導要領にも見られる「地図や地理情報システムの役割や有用性などについて理解すること」の重要性を、「GISを使用し、種々のデータをコンピュータ上で重ね合わせることによって何が明らかになるのか」を考えさせる問題を通して、再認識させようとしているように思います。その意味で、本問で扱われているような内容が試験問題として出題されるのは、非常に意義深いことです。


しかしながら先述のとおり、防災や減災は、試験として学力識別に足るよう作問するのが非常に難しいテーマです。資料や図表の提示が必要である一方で、提示すればするほど、問題が易化するというジレンマを抱えています。これは、正答率が高くなり過ぎる可能性が多大にあることを意味し、事実、本問の正答率も88.1%に上りました。

けれども、正答率のバランスを取ろうとして、敢えて問題を複雑にすることにはもっと意味がありません。問うべき知識・技能や思考力等を「正しく」測定する問題にならないからです。

「防災は地理学として扱うべき重要な内容である。しかし、どのように作問すれば学力識別に足る問題となるのか」

防災をテーマとする入試問題には、常にこの課題がつきまといます。これは大変難しい課題です。しかし、「受験地理」に携わるすべての人に課せられた、乗り越えるべき試練であるとも感じています。私自身、なかなかアイディアが浮かばないのが正直なところですが、諦めることなく、向き合い続けていきたいです。


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