
河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―世界史編―[後編]
■ 人文学系の学問は「船の錨」
――最後に、先生が考える「世界史」あるいは「歴史」を学ぶ意義について教えてください。
先ほど「歴史も『役に立つ』」という言い方をしましたが、本音では「必ずしもすべての学問が具体的に何かの役に立つ必要はない」と思っています。
現在、世間的には実学が非常にもてはやされています。理系分野はもちろん、文系でも実学寄りの分野の人気は高いです。一方、哲学や歴史学、文学といった分野は、やや冷遇されているように感じます。すぐに実績が出るような学問領域でないにもかかわらず、「毎年実績を出しなさい」「早く論文を書きなさい」と焦らされ、ひどい場合は「実績が出せないのなら補助金を減らす」と言われる始末です。
しかしながら、私は人文学系の学問こそ国の礎だと考えています。これは私が授業でよく用いる例えですが、国あるいは世界を一艘の船だと考えたとき、燃料や操縦席といった具体的なものをどんどんハイテク化し、船を近代化するのを担っているのが実学です。それに対し、船が彼方へ流されてしまわないよう、どっしりと留めておく錨(いかり)の役割を果たしているのが人文学であると私は考えます。
驚くほどのスピードで近代化して、立派な船が出来上がったとしても、十分な重みのある錨が無いと、その船は安全に留まっておくことができません。よからぬ方向へ流されていってしまいます。人文学系の研究が衰退している国は、「迷える船」にしかなりません。私は今、日本がその状態にあるのではないかと危惧しています。
決して実学が国の礎でないと言っているのではありません。ただ、成果があらわれるのに時間はかかるかもしれないけれども、実学とはまた異なるベクトルで、人文学もまた、国の礎たる、非常に重要で意義のある学問だと私は思うのです。
――非常に貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。本日は誠にありがとうございました。