オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

大学における共通教科情報科のリメディアル授業の開発 ~大学の学びで必要な、コンピュータによる問題解決のレディネス向上を目指して~

途中で履修を中止した人が1人いましたが、他の学生はかなり一生懸命取り組み、全員合格しました。また振り返りを見ると、コンピュータが動く仕組みについて、初めは知識にすら自信がない人が大半だったところ、授業後には自信をつけた人が相当数にのぼっていました。さらに、micro:bitのプログラミングの自己評価も、「5」ではないけど「4」くらいかなとする人が多く、こちらもそれなりに自己効力感が高まったようです。

自由記述では、「プログラミングの考え方や問題解決の方法がわかった」「解決状態を想定して、それに向けてどのようなステップでやっていくのかを考えなければいけない」「いきなり答えを出すのではなくて、何度も試行錯誤しながらやることが大事だとわかった」というコメントが多く見られました。概して、ICTに苦手意識のある学生に対して、効果的にアプローチできたと思います。

「グループで1つのものに取り組むとき、相手がわかっているという前提で話してはダメで、ちゃんとコミュニケーションを取らないといけないことがわかった」というコメントもけっこう見られました。グループで取り組む学習活動は、高等学校までで何らかの形で経験することになっているはずですが、実際のところ、じっくりコミュニケーションをとる学習活動は、あまり行われていないのかもしれません。それを経験させられたこともよかったかな、と思います。

望月氏発表ポスターより

この授業の対象は、今のところ人間科学部の学生のみです。コンピュータの活用状況も、たまたま抽選で受講できた同学部生の結果ですが、他の学部でも今後問題になってくるように思います。加えて、入試で情報を受験しなかった人の中には、「『情報Ⅰ』は高等学校で学んでいるけれど、1年生で履修しただけなので、何をやったかよく覚えていない」という人もいるでしょう。

本学では、いわゆるプログラミング言語を学ぶ科目は、グローバル・エデュケーション・センターという組織で全学的に準備されていますが、今回の事例のような、本当に入門的な授業はこれまで設置されていませんでした。まだ初回の試行で、改善の余地などもありますが、大学入学後に、本格的にコンピュータを使って問題解決を行うレディネスを向上させるために、この授業は有効であったと考えてよいと思います。


早稲田大学 望月 俊男

プロフィール:
早稲田大学人間科学学術院准教授。
慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修士課程修了、総合研究大学院大学文化科学研究科メディア社会文化専攻博士後期課程修了。博士(学術)。
日本教育工学会理事。
教育システム情報学会・日本科学教育学会・日本認知科学会・日本教育心理学会・International Society of the Learning Sciences・European Association for Research on Learning and Instruction・International Society for Quantitative Ethnography各会員。
神戸大学、東京大学、専修大学で研究教育に従事したのち、2024年4月より現職。協調学習と学習科学に関する研究に従事し、情報リテラシー教育に関する実践研究も行っている。

受賞歴:
2004年日本教育工学会研究奨励賞
2005年日本教育工学会論文賞
2008年日本科学教育学会論文賞、ED-MEDIA2008優秀論文賞・ポスター賞
2009年CSCL2009最優秀技術デザイン論文賞 等


Author:小松原 潤子(KEIHER Online 編集委員)
編集:山口 夏奈(KEI大学経営総研 研究員)

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