オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

【Ⅲ.学生の変化】Part.2「学生からの相談内容」-全国国公私立大学学長アンケート2024-2025 詳細分析-


相談件数の増減と、メンタルヘルスに問題を抱える学生・休退学者の増減の関係について

設問Ⅲ-1~3の結果と設問Ⅲ-5「相談件数の増減」について、クロス集計を行った結果が以下の図33~41である。

A1)「メンタルヘルスに問題を抱える学生が増えた」大学について

図33 Ⅲ-1とⅢ-5のクロス集計(メンタルヘルスに問題を抱える学生が「増えた」大学について)

全体的な増減の傾向は全体版と同様であるが、いずれの項目においても、「増えた」と回答した大学の割合が全国版比で高い。特に3割以上の大学が「相談が増えた」と回答したのが、「学業・研究」「就職関係」「家族関係」「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」「ハラスメント」「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の7項目である。中でも、心身の健康が影響し得る「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の2項目は、相談が増加した大学の割合がともに50%を超え、その割合はどちらも全体版より約8ptも高い。なお、全体版より「増えた」と回答した大学の割合が5pt以上高かった項目は、前述の2項目に加えて、「学業・研究」(+5.2pt)、「家族関係」(+5.3pt)、「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」(+6.0pt)であった。

他方、「家族関係」「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」については、相談が「減った」と回答した大学の割合が、全国版をやや上回っている。それぞれの項目に対し、相談が「減った」と回答した大学の割合は、「家族関係」が2.9%(対全体+1.4pt)、「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」が4.6%(対全体+1.1pt)である。

A2)「メンタルヘルスに問題を抱える学生数に変化がない」大学について

図34 Ⅲ-1とⅢ-5のクロス集計(メンタルヘルスに問題を抱える学生数に「変化がない」大学について)

コロナ禍以前と比較して、「メンタルヘルスに問題を抱える学生数に変化がない」と回答した大学では、相談件数の増減においてもとりわけ大きな変化は見られないようである。しかし、その中でも2割以上の大学が「相談が増えた」と回答したのが、「就職関係」および「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の3項目であった(ただし、全体版と比較したときの割合は低い)。また、「相談が減った」と回答した大学の割合が全体版を3ptほど上回るのが「転部・転科」「家族関係」「ハラスメント」の3項目、1.5pほど上回るのが「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」である。

A3)「メンタルヘルスに問題を抱える学生が減った」大学について

図35 Ⅲ-1とⅢ-5のクロス集計(メンタルヘルスに問題を抱える学生が「減った」大学について)

サンプル数が少ないため信頼性に乏しいが、メンタルヘルスに問題を抱える学生が減った大学においても、「ハラスメント」、「モチベーションがあがらない、目標が持てない」といった相談は、半数以上の大学で増加しているようである。また、「ハラスメント」の相談が「減った」と回答した大学が0校であったのは注意すべき点であろう。

A1~A3においては、A3のサンプル数が少ないため、メンタルヘルスに問題を抱える学生の増減と相談件数の増減の関係を一概に述べることは難しい。しかしながら、「不眠・朝起きられない」の相談が増加した大学の割合は、メンタルヘルスに問題を抱える学生が減るほど低くなる様子はうかがえる。


B1)「休学者が増えた」大学について

図36 Ⅲ-1とⅢ-5のクロス集計(休学者が「増えた」大学について)

いずれの項目においても、「相談が増えた」と回答した大学の割合が全体版比で高い。特に「学業・研究」に関する相談が増えたと回答した大学の割合は47.1%で、全体値を11.4ptも上回った。また、「モチベーションがあがらない、目標が持てない」という相談が増加した大学は約55%に上り、全体版と比較して7.0pt高い。これらに鑑みると、休学者の増加には、学修意欲の減退が関係している可能性が考えられる。なお、このほかの項目で、「相談が増えた」と回答した大学の割合が全体版を5pt以上上回るのは、「就職関係」(40.0%・+5.8pt)、「家族関係」(36.8%・+5.2pt)、「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」(32.3%・+5.6pt)、「不眠、朝起きられない」(48.4%・+5.8pt)である。なお、「相談が減った」については、全体版に対して2pt以上差が開いた項目は無かった。

B2)「休学者数に変化がない」大学について

図37 Ⅲ-1とⅢ-5のクロス集計(休学者数に「変化がない」大学について)

休学者数に変化がない大学においては、全項目で「相談件数に変化ない」と回答した大学が半数に上った。「相談件数が増えた」が全体値を大きく上回る項目も見られない。しかし、「就職関係」「ハラスメント」「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の4項目については、相談件数の増加した大学の割合が3割を超えている。中でも「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の相談が増えた大学は4割に上る。
また、B1)「休学者が増えた」と回答した大学と比較して、「学業・研究」は-20.9pt、「モチベーションがあがらない、目標が持てない」は-14.5ptである。

B3)「休学者が減った」大学について

図38 Ⅲ-1とⅢ-5のクロス集計(休学者が「減った」大学について)

「学業・研究」を除くすべての項目で、「相談が減った」と回答した大学の割合が全国値より高い。一方で、相談件数が増加した大学が3割以上を占める項目も複数見られる(「学業・研究」30.6%、「家族関係」30.6%、「ハラスメント」30.6%、「不眠、朝起きられない」50.0%、「モチベーションがあがらない、目標が持てない」55.6%)。

また、B1)「休学者が増えた」と回答した大学と比較して、「学業・研究」は「相談が増えた」が-16.5ptであるが、「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の「相談が増えた」は+0.8ptであった。なお、「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の2項目の相談が「増えた」と回答した大学の割合は、休学者数の減った大学が、休学者の増えた大学および休学者数に変化がない大学よりも高い結果となっている。

B1~B3より、「就職関係」の相談が増加した大学の割合は、休学者数が減少した大学ほど落ち着く傾向が見られる。「ハラスメント」の相談が増加した大学の割合は、B1~B3いずれも30%程度で全体版と同等である。心身の健康が影響し得る「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の2項目は、相談が増えた大学の割合が、他の項目比で高めであった。

また、「学業・研究」の相談が減少した大学の割合は、休学者が増加した大学ほど高かった。「家族関係」「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」といった人間関係に関する相談は、休学者が減少した大学ほど「相談が減った」大学の割合が高くなる傾向が見られる。「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の2項目も上記同様、休学者の減った大学ほど相談が減った大学の割合が高くなっていた。


C1)「中途退学者が増えた」大学について

図39 Ⅲ-1とⅢ-5のクロス集計(中途退学者が「増えた」大学について)

「進学」を除くすべての項目で、「相談が増えた」と回答した大学の割合が全体値より高い。約4割の大学が「相談が増えた」と回答したのが、「学業・研究」(42.9%)、「就職関係」(41.7%)、「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」(39.3%)の3項目、5割以上の大学が「相談が増えた」と回答したのが、「不眠、朝起きられない」(56.0%)、「モチベーションがあがらない、目標が持てない」(63.1%)であった。なお、「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の相談が増加したと回答した大学の割合は、クロス集計A1~C3の中で、本区分が最も高い値を示した。

C2)「中途退学数に変化がない」大学について

図40 Ⅲ-1とⅢ-5のクロス集計(中途退学者数に「変化がない」大学について)

コロナ禍以前と比較して「中途退学者数に変化がない」と回答した大学では、相談件数の増減においてもとりわけ大きな変化は見られない。「相談が増えた」と回答した大学の割合も、すべての項目で全体値以下である。ただし、心身の健康状態が影響し得る「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の2項目については、3割以上の大学が「相談が増加した」と回答した。

C3)「中途退学者が減った」大学について

図41 Ⅲ-1とⅢ-5のクロス集計(中途退学者が「減った」大学について)

すべての項目について、「相談が増えた」大学の割合、ならびに「相談が減った」大学の割合がともに全体値を上回った。「相談が減った」と回答した大学の割合が10%を超えるのは、「学業・研究」「転部・転科」「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」の3項目で、いずれも全国値を6.6~8.2pt上回っている。学業に関する悩みや人間関係の悩みの減少が、中途退学者の減少に寄与している可能性が考えられる。

一方、「相談が増えた」と回答した大学の割合が3割を超える項目は6つあり(「学業・研究」「就職関係」「家族関係」「ハラスメント」「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」)、これらの相談は中途退学者が減少に関わらず増加傾向にあることがうかがえる。また、「相談が増えた」と回答した大学の割合が全体値を6.0pt以上上回る項目は5つであった(「学業・研究」「就職関係」「進学」「家族関係」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」)。

C1~C3より、「学業・研究」「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」「ハラスメント」「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の5項目は、中途退学者が減った大学ほど、相談件数が減少傾向にあることが分かった。


上記A1~C3のクロス集計より、いずれの区分でも、「相談件数の増減に変化はない」と回答した大学の割合が過半数を占める項目がほとんどであった。しかし、「学業・研究」、「就職関係」、人間関係に関する「家族関係」「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」、「ハラスメント」、心身の健康状態が影響し得る「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」については、相談件数が増加した大学が、全体的にやや多いようである。
また、メンタルヘルスに問題を抱える学生が増えた大学、休学者が増えた大学、中途退学者が増えた大学ではいずれも、「学業・研究」の相談が増えた大学が4割以上存在し、さらに「不眠、朝起きられない」の相談が増えた大学は5割程度、「モチベーションがあがらない、目標が持てない」の相談が増えた大学も5割~6割程度存在することが分かった。


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