
【Ⅲ.学生の変化】Part.2「学生からの相談内容」-全国国公私立大学学長アンケート2024-2025 詳細分析-
■ 設問Ⅲ-5 相談件数の増減について
設問Ⅲ-5では、図28に示す各項目について、2019年以前と現在を比較した場合の相談件数の増減を問うた。

図28 学生からの相談件数の増減(全体)
a 学業・研究:
約半数の大学が相談件数は「変わらない」と回答。すなわち大学全体の傾向としては、コロナ禍以前から現在に至るまで、相談件数は「多い」まま推移していると考えられる。ただし、約35%の大学は「増えた」と回答している。
b 転部・転科:
6割以上の大学が相談件数は「変わらない」と回答。すなわち大学全体の傾向としては、コロナ禍以前から現在に至るまで、相談件数は「少ない」まま推移していると言える。また、従来「相談はない」という大学も13%見られた。
c 就職関係:
約6割の大学で相談件数は「多い」まま推移していると考えられる。ただし、「増えた」と回答した大学も35%程度存在する。
d 進学:
全体としては多くの大学で「少ない」まま推移していると言える。
e 家族関係 および f 部活動・サークル、アルバイト先での対人関係:
e、fともに約6割の大学が、相談件数は「変わらない」と回答。つまり全体的には、本件に関する相談が多い大学は多いまま、少ない大学は少ないまま推移していると言える。一方で、どちらの項目も「増えた」と回答した大学が3割程度存在する。現在、両項目の相談件数は、「多い」大学と「少ない」大学の割合が拮抗していることを踏まえると、大学全体としてこれらの相談は、コロナ禍以前は現在よりもやや少なめであった可能性もあり得る。
g 部活動等の成績:
依然として相談は「少ない」、あるいは「相談はない」ようだ。
h ハラスメント:
約6割の大学が相談件数は「変わらない」と回答。つまり全体的には、コロナ禍以前から本件に関する相談は「少ない」まま推移している大学が多いようだ。しかし、「増えた」と回答した大学も3割程度存在することから、本項目における相談件数は、コロナ禍以前は、現在よりさらに少なかったと推測される。ただし、昨今の「ハラスメント」に分類される行為の拡大が、本項目の相談件数の増加に関係している可能性は高い。
i 不眠、朝起きられない:
「変わらない」が過半数を超えず(46.4%)、相談件数が「増えた」大学が42.6%に上った。全国的には依然として本項目に関する相談は多く、またコロナ禍を経て本項目の相談が増加した大学も4割ほどあることが分かる。
j モチベーションがあがらない、目標が持てない:
「変わらない」が過半数を超えず(43.8%)、相談件数が「増えた」大学が47.8%と約半数に上った。全国的には依然として本項目に関する相談は多く、またコロナ禍を経て本項目の相談が増加した大学も5割ほどあることが分かる。
【設置区分】
<国立大学>

図29 学生からの相談件数の増減(国立大学)
全体版と比較して、「学業・研究」の相談はより強い増加傾向が見られる。「ハラスメント」の相談も増加のきらいが見られ、コロナ禍以前は現在よりも、これらに関する相談は少なかった可能性が考えられる(ハラスメントの定義の拡がりも関係していると推察される)。心身の健康が影響し得る「不眠、朝起きられない」「モチベーションがあがらない、目標が持てない」といった相談も増加しているようだ。
「就職関係」「進学」といった進路に関わる相談について、「増えた」「変わらない」と回答した大学の割合は全体版と同程度であるものの、「減った」の割合は全体版よりも高かった。
「家族関係」「部活動・サークル、アルバイト先での対人関係」といった人間関係に関する相談は、全体版同様、3割ほどの大学が「増えた」と回答している。一方で、「減った」と回答した大学の割合は、全国版を2~6ptほど上回った。
<公立大学>

図30 学生からの相談件数の増減(公立大学)
「学業・研究」に関する相談は全体版と比較してやや減少傾向が見られる。進路に関する相談について、「就職関係」の相談が増加した大学が3割程度見られるのは全体版と同様であるが、「進学」の相談が増加した大学は22.6%存在し、これは全体版を8.4%上回っている。
e,fの人間関係に関する相談の増減は、全体版とほぼ同傾向を示す。「ハラスメント」の相談は、全体版同様、3割ほどの大学で増加している一方で、減少した大学の割合が全国版よりも高い。
「不眠、朝起きられない」ことに対する相談が約4割、「モチベーションがあがらない、目標が持てない」ことに対する相談が約5割の大学で増加している点は全体版と同様であるが、「不眠、朝起きられない」については、「減少」した大学の割合が、全体版よりも高値になっている。
<私立大学>

図31 学生からの相談件数の増減(私立大学)
相談内容の増減の傾向は、全体版とほぼ同じと言ってよい。
【収容定員】

図32 学生からの相談件数の増減(収容定員)
a 学業・研究:
「学業・研究」に関する相談が「増えた」大学の割合は、収容定員10,000人未満の大学までは、規模が大きくなるにつれて徐々に高くなる傾向が見られる(収容定員規模の小さい順に、本相談が「増えた」と回答した大学の割合は、22.5%→34.4%→45.5%→50.9%である。なお、収容定員10,000人以上の大学では「学業・研究」に関する相談が増加した大学は37.1%である)。
また、全体版では本相談の件数が「増えた」大学は約36%、「変わらない」大学が約55%であり、同様の傾向は収容定員3,000人未満の大学で見られる。「増えた」と「変わらない」の比率がおよそ5:5になり、全体版と違った傾向を示すのは、収容定員3,000人以上の大学群である。なお、収容定員10,000人以上の大学では、本相談が「減った」大学も一定程度確認できる。
c 就職関係:
収容定員10,000人未満の大学では、本項目の相談が「増えた」と回答した大学の割合は、全国版同様3~4割程度であるが、収容定員10,000人以上の大学では、その半数が本相談の増加を訴えている。他方、収容定員5,000人~10,000人の大学では、本相談が減少した大学が12.7%と、比較的高い割合で見られた。
d 進学:
収容定員10,000人以上の大学のみ、全体値以上に相談件数が増加している。
e 家族関係:
本相談が「増加した」大学の割合は、収容定員5,000人未満の大学では全体版と同程度(約3割)、あるいはそれ以下であるのに対し、収容定員5,000人以上の大学では4割、10,000人以上の大学では6割を超えている。
f 部活動・サークル、アルバイト先での対人関係:
項目e同様、中~大規模の大学で増加傾向強い。一方で、本相談が「減った」大学の割合が最も高いのも、収容定員10,000人以上の大学である(8.6%)。
h ハラスメント:
全体版では、本相談が増加した大学の割合は31.3%であるのに対し、収容定員5,000以上の大学から、その割合が40%を超えてくるのは気になる点である。
i 不眠、朝起きられない,j モチベーションがあがらない、目標が持てない:
収容定員3,000人以上の大学から、これらの相談が「増えた」と回答した大学の割合が50%を上回る。
なお、収容定員10,000人以上の大学では、いずれの項目においても、「相談件数が増加した」と回答した大学の割合が全体値を上回っていた。ただし、そもそも学生数が多いため、相談人数の増えている場合、必然的に全項目の相談が増加しているとも考えられる。