オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

清泉女子大学の新構想「公共創造学環」とは 次世代を見据えた「新しい公共人」の育成

3.組織・教育体制の特徴:学際的な「人文知」と「実践の知」の融合

「公共創造学環」は、学部を横断する「学環」という柔軟な組織形態を採用し、定員35名という少人数精鋭の教育を展開する予定だ。具体的には教育内容は、以下のようになる。

「人文知」による想像力の育成:文学部の伝統を継ぐ「総合文化学部」が培ってきた「人文知」=「物語・歴史・哲学を通じた人間理解」を、未来デザインのためのツールとして再定義する。例えば、「江戸東京学」等の科目を通じ、地域の記憶を紐解きながら、22世紀に向けた新たな物語を構築する「想像力」を鍛える。

地球市民学部の「実践知」との掛け合わせ:25年の歴史を持つ地球市民学部の培ってきた「実践知」を融合する。現場で膝を突き合わせて対話を行なう「実践知」と「人文知」を掛け合わせることで、実効性のある公共政策を構想する力を養う。

フィールドワークを主体とするカリキュラム:3〜4年次のゼミは、2コマ連続(午後をフル活用)で設定されている。これは、2限の授業終了直後に学生が教室を飛び出し、午後の全時間を「町全体というラボ」でのフィールドワークに投じることができるよう設計されている。

4.「町全体がキャンパス」となる:品川・大崎・五反田エリアでの社会実装

また、「公共創造学環」では、大学が位置する「島津山」周辺から、五反田・大崎エリアを「生きたラボ」として活用し、官民学が深く連携して教育を行なう。その連携の対象は、実に多様だ。

品川区とは、2015年に包括連携協定を締結し、これまで多様な協働の実績を積み重ねてきた。また、民間との連携では、「大崎エリアマネージメント」との連携協定や、建築設計の国内大手・久米設計が事務局を担う「五反田バレーユニバーシティ」との提携もある。さらには、学生は商店街の活性化プロジェクトなど、具体的な町・都市の取り組みに直接関与し、工学や建築の専門家と対話しながら社会実装のプロセスを経験することになる。

5.キャリアパス:卒業生が担う「新しい公共人」の姿

「公共創造学環」での学びは、どのような進路につながるのだろうか。「公共人」の育成が掲げられているが、その進路は公務員やNPOなどに限定されない。「新しい公共人」は、あらゆる組織において「社会課題解決と事業性の両立」を担うことができる存在となるからだ。

たとえば、民間企業のCSV部門やスタートアップ企業に就職する学生もいるだろう。公共性の高い領域において、学環で学んだ知識・技能も生かしつつ、行政の手が届かない領域を事業化することもできるだろう。もちろん、自治体やNPO、アカデミアなどで活躍する者も多いはずだ。彼らは、多様なステークホルダーを巻き込む「コーディネーター」、あるいは「新しいタイプの政策立案者」として活躍することが期待される。

清泉女子大学の設立母体である聖心侍女修道会を創設したラファエラ・マリア・ポラスは「すべての人を幸せにするように働くこと」を説いている。その理念は、「公共創造学環」にも引き継がれることになるだろう。自らの能力を社会の幸福のために発揮できる女性を世に送り出すこと。この理念は、清泉女子大のような(通常の逆の意味での)「スケールメリット」を活かした、小規模であるがゆえのきめの細かい教育によってこそ、よりよく達成可能となるのではないだろうか。

6.AI時代における「対話」と「経験」の価値

人に代わってAIが情報整理や分析を行なうようになった現代において、人間はどう変わっていくのか。「公共創造学環」構想を主導する山本学長は、「AIが人間の知的作業をアシストする時代だからこそ、1人ひとりの個性に合わせた深い経験と対話が重要になる」と述べる。

すでに同大では、AIを創造的活動において活用しており、楽曲制作や小説執筆を試みるなど、テクノロジーを使いこなしながらも「人間ならではの感性」を研ぎ澄ます教育を実践している。

効率化や大規模化を追うのではなく、徹底的に「一人ひとりに向き合う」。清泉女子大学の「公共創造学環」は、AIには代替不可能な「経験の質」を追求・追究することで、22世紀という未知の時代に向けた、大学教育あり方、その誠実かつ戦略的な方向性を示そうとしている。

▼「公共創造学環」(仮称・2025年4月開設予定・設置構想中)の学びを体験できるオープンキャンパス
https://www.seisen-u.ac.jp/admissions/event/opencampus

▼「公共創造学環」(仮称・2025年4月開設予定・設置構想中)について
https://public.seisen-u.ac.jp

▼ 清泉女子大学 公共創造学環のページはこちらをご覧ください。
https://public.seisen-u.ac.jp/

(記事終わり)


当記事は、KEI大学経営総研の取材に基づき、KEI大学経営総研が独自に記事を作成したものです。
学環構想の具体的な内容については、上記の大学ホームページ等をご覧ください。
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取材:三品 健(KEI大学経営総研)
文責:原田広幸(KEI大学経営総研)

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