
情報入試実施大学レポート―京都産業大学・南山大学・日本大学―
【日本大学】人文・社会系、理学系で情報入試を実施―――数理・データサイエンス・AI教育への接続のために
日本大学文理学部 谷 聖一教授
※第24回情報科学技術フォーラム(FIT2025)講演
「日本大学文理学部が一般選抜個別テストにおいて文理両方の日程で『情報』を出題」より

--文理学部は、2025年度入試から一般選抜で「情報I」を試験科目に導入されました。私立大学の人文社会系の個別入試に「情報」を出題することの意義をお話しください。
最初に、簡単に文理学部の紹介をします。人文系・社会系・理学系合わせて18学科を擁し、1学年の定員は1,900人、学部全体で7,600人です。「文と理」の横断・融合を目指した教育を基本として、各学科による個々の専門に応じた教育・研究を行っていますが、それ以外に、自分の学びたいことをプラスして、境界を超えた柔軟で学際的な思考と創造力を養う「副専攻」を用意しています。


例えば、哲学科に入って心理学を副専攻とするように、他の学科の内容を学ぶこともできますが、それ以外にも、「グローバルコミュニケーション」や「データサイエンス」といった、既存の学科の枠を超えた副専攻も用意しています。
では、なぜ文理学部で「情報」の入試をするのか、ということですが、一つには高大接続の観点があります。情報系やエンジニア系の学部の人には、当然情報の知識や技能が必要ですが、我々は、これからの時代は人文系・社会系の人にも情報の素養が必要であると考えて、情報教育を行っています。
そして2022年度の学習指導要領の改訂で、高校で「情報Ⅰ」が必履修になり、そこで学んだことと大学で学ぶことをうまくつなげていくことが、入試の一つの役割になるのではないか、と考えています。
下図が文理学部の人文系・社会系の情報関係のカリキュラム例です。全員が数理・データサイエンス・AIの科目を学ぶことになっています。「情報リテラシー」は必修科目で、「データ処理基礎」「ビッグデータサイエンス」も必履修として全員が学ぶことになっています。後者の2科目は、万一単位が取れなくても、受講していれば卒業できる、という扱いにしています。

そして、この「情報リテラシー」「データ処理基礎」「ビッグデータサイエンス」に、選択科目の「アルゴリズムとデータ構造」を加えた4科目を取ると、哲学や歴史、文学が専攻であっても、文部科学省の数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度の「応用基礎レベル」の認定を受けられ、実社会で役立つコンピューティング技術を身に付けることができます。さらに副専攻でデータサイエンスを選択すれば、高いデータ分析力を獲得できることになります。
このようなカリキュラムを用意していることもあり、文系であっても、情報の力を測る入試にチャレンジしてほしい、と考えています。
--文理学部の入試方式について教えてください。今回、「情報」はどのような形で導入されたのでしょうか。
下表が文理学部の入試方式です。定員1,900名のうち、総合型選抜で約100名を、一般選抜で約900名を取ります。残りの約900名は、付属高校を含めた学校推薦型選抜です。
一般選抜には、日本大学全体で共通で実施する「N全学統一方式」、「C共通テスト利用方式」、学部独自で出題する「A個別方式」があり、文理学部はこのA個別方式の募集人員が約700名で、最も募集人員が大きくなっています。

A個別方式は典型的な私立大学3教科型入試で、人文系と社会系が国語・選択科目・外国語。理学系は、数学・選択科目・外国語です。今年度から、この選択科目に「情報」を加えました。受験する科目は、人文系・社会系、理学系ともに試験当日に選択します。
下表の『科目2』が選択科目で、人文系・社会系は「地理歴史」「公民」「数学」の6科目に「情報」を加えた7科目から1科目を、理学系は「理科」4科目に「情報」を加えた5科目から1科目を選択する、という形になっています。

なお、C共通テスト利用方式では、社会学科が「情報Ⅰ」を必須としています。
--出題の内容や、作問ではどのような点を工夫されたのでしょうか。
人文・社会系と理学系のいずれにおいても、情報に関する基本的な概念や分析手法について、教科書掲載の内容を正確に理解していることを測る出題を行っていますが、違いもあります。
一例を紹介しますと、アルゴリズムに関する問題では、人文・社会系では「条件分岐」や「繰り返し」について厳密な理解に基づいて解答することを求めているのに対して、理学系では、読解力や数学的な考え方を含めた総合力に基づいてプログラムを作成できることまで求めています。
--受験生の反応はいかがでしたでしょうか。
2月3日実施の試験の速報値では、人文・社会系の受験者は全体で約4,200人でした。「情報」の受験者数は、初年度でまだ浸透していなかったのと、やはり「地理歴史」や「公民」を選択する人が多かったこともありますが、それでも全科目の中で一番少なかったわけではありません。
理学系は、全体の受験者数が約1,300人で、「情報」を選択した人は100人弱というところです。こちらも非常に多かった、というわけではありませんが、それでも予想以上には受験してくれて、実施した意味はありました。
「情報」の得点分布を見ると、人文・社会系の分布はきれいな山になっていて、ほどよい難易度であったと思います。理学系の方は、上位層が薄い分布になり、難易度は少し高かったようです。

--今後に向けた取り組みを教えてください。
来年に向けては、まず広報をしっかり行って、文理学部が「情報」で受験できることを広く受験生に伝えていきたいと思います。
今は、人文・社会系の学びにも様々な情報リテラシーが必要です。情報学はメタサイエンスであり、高校の「情報」から、大学の情報教育にしっかりつないでいくためにも、「情報」を利用した入試には意味があると考えています。
そして、AI時代を迎えて、「情報」で身に付けるべき能力は何か。情報教育、特にプログラミングをどのように学ぶのか、といったことを、コンピテンシーの再設計・再構築を含めて考えていかなければなりません。これは個々の大学というよりも、もう少し大きな話になってくると思います。
インタビュー・記事:小松原 潤子(KEIHER Online 編集委員)


