
情報入試実施大学レポート―京都産業大学・南山大学・日本大学―
【南山大学】理科の選択科目として「情報」を導入 ―――「情報」が得意で学びたい学生が集まった
南山大学理工学部 名倉 正剛教授

※全国高等学校情報教育研究会第18回千葉大会 ポスター発表
「大学入試新課程「情報入試」導入の一事例の紹介と今後の展望」より
--貴学理工学部の情報入試の具体的な内容をお教えください。
理工学部の入試方式には、大別して、名古屋市内の本学で実施する一般入試、全国の会場で実施する全学統一入試(「個別学力試験型」と「共通テスト併用型」)、共通テスト利用型、その他推薦等の年内入試があります。
今回情報入試を導入したのは、全学統一入試の「個別学力試験型」です。
もともとこの「個別学力試験型」では、学力試験として数学と理科(「物理基礎、物理」「化学基礎、化学」の2科目から選択)と外国語を課していました。2025年度から、その理科の科目の1つとして、新たに「情報Ⅰ」を加えました。
この「理科・情報」の試験では、試験時間60分で大問2問を解きますが、大問ごとに物理、化学、情報の中から選択して解くという形式で行います。問題の形式は、いずれも第1問が穴埋めの短答式の小問が2問、第2問が記述式です。
受験生はその場で問題を見て解答するものを選択します。ですから、第1問を物理、第2問を情報としても、第1問・第2問とも情報としてもよいわけです。

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025年度の「情報Ⅰ」の、第1問の小問1は「データの活用」を出題しました。ヒストグラムや箱ひげ図の読み取りに関する問題です。小問2はコンピュータの仕組みについて、加算器の論理回路を出題しました。
第2問は、記述式のプログラミングの問題です。プログラム言語はこの試験のために日本語表記プログラムの独自言語を作って、それで書かれたアルゴリズムを読み取って答えるものでした。

https://www.nanzan-u.ac.jp/admission/news/2025/250519_joho.html
--今回情報を選択して受験した人には、どのような特徴があったのでしょうか。
我々としては、情報を導入したものの、誰も受験してくれなかったというのでは困るので、各問題の情報の選択率を見ました。すると、第1問の短答式を選択した人が約60%、第2問の記述式が約30%でした。なお、ここで挙げている数字は、いずれも入試結果の速報値によるものであることをご了承ください。
昨年度、この「個別学力試験型」の理科が物理と化学のみだったときの選択率は、物理が約80%、化学が20%でした。物理と化学の選択率については、このような選択形式にしている大学では、だいたい同じであると思います。
今回、情報の第2問の選択率が下がっているのは、受験生がこの独自言語のプログラムを見て、何となく難しそうだと思って敬遠した、ということがあるかもしれません。それでも、選択科目が増えた中で、情報を選択してくれた受験生が多かったことに、我々としてはホッとしています。
さらに、受験生の高校の所在地域によって「情報Ⅰ」の選択率に差があったのではないか、ということで、高校の所在する都道府県ごとに、選択率をまとめたのが下表です。ただ、本学は中部圏からの志願者が多く、それ以外の地域からの志願者はほとんど10人以下なので、中部圏以外では人数として信頼できるほどのデータは取れなかったものとしてご覧ください。
ある程度志願者が多かった県の結果を見ると、大都市を抱える県では「情報Ⅰ」の選択率が割合高くなっていますが、地方都市ではやや低くなっています。さらに、東海地域は、もともと国公立大学志向が強いので、共通テストに向けて「情報Ⅰ」を勉強してきているからかもしれない、ということはあります。
他の地域を見ると、サンプルは少ないですが、やはり地方は選択率が低い感があります。逆に、東京は私立大学志向が強いと言われるので、はじめから「情報Ⅰ」を受験科目として勉強しない人が一定数いて、それも影響しているのではないか、ということもうかがわれました。

--情報を選択して受験した人の、入学割合という意味ではいかがでしょうか。
確かに、せっかく情報を選択して合格しても、最終的に入学せず、他の大学に行ってしまわれては意味がないので、理科の選択科目と入学の傾向に関係があるのかを分析しました。
すると、第1問で物理を選択して合格した人のうち、実際に入学した人の割合は24.3%、約4分の1でした。同じく化学は約5分の1でした。一方で、「情報Ⅰ」を選択した人は、約半数が入学しています。この結果には、我々も驚きました。
第2問についても同様の傾向で、「情報Ⅰ」を選択して合格した人の過半数が入学していました。先ほど第2問は選択した人が少なかった、という話をしましたが、合格すれば入学してくれた、つまり歩留まりが良かったということになります。
情報を選択して合格すると入学の割合が大きいということは、手前味噌になるかもしれませんが、潜在的に情報を学びたい学生は結構いる。そして、我々が情報入試を実施したことで、情報に自信のある人が集まってくれたのではないか、と思っております。
現在、情報入試の導入を検討されている大学の皆様には、情報入試を取り入れるのは、ある意味ブルーオーシャンである、と申し上げたいと思います。ただ、そうは言っても、あまり多くなると、今度は受験生の奪い合いになってしまうことになるので、痛し痒しではありますが。それでも、情報が得意で学びたい、という学生を取るために、情報入試は有効であった、ということをお伝えしたいと思います。
--選択のしかたによっては「情報Ⅰ」は1問のみの選択ということになりますが、そこで情報の力を測るために、出題において工夫されていることがあればお教えください。
情報の力というのは、情報の問題を選択して解くことに限ったものではありません。問題に対して論理的に考えることは、他のどの分野でも必要なものと考えます。
仮に情報を1問しか選択しなかったとしても、暗記した内容だけで解ける問題ではなく、ものの考え方として情報に根差した考え方ができているかどうかを確認できるような問題で構成するようになっています。
単純に「ヤマを張って」暗記してきた範囲が出題されたから、その部分だけを選択しよう、というような勉強方法には向かないような問題になっているため、その結果として仮に1問しか選択しなかったとしても、情報の力を測ることができるような出題になっていると考えます。


