
情報入試実施大学レポート―京都産業大学・南山大学・日本大学―
【京都産業大学】併願オプションとして情報入試を実施―――「情報」選択者の歩留まりが高かった
京都産業大学情報理工学部 吉村 正義教授、安田 豊准教授

--貴学の情報理工学部の情報入試の具体的な内容をお教えください。
2025年度から、情報理工学部と理学部の一般選抜入試(前期)スタンダード2科目型(英語・数学各100点満点、計200点)の併願オプションとして、3科目めに情報が受験できる「情報プラス型」を設置しました。

これは2科目受験の日程に3科目めとして「情報」を設けて、出願時に申請しておくと、情報の試験が受けられるというものです。
情報プラス型では、英語と数学の2科目型での合否判定と合わせて、情報を加えた3科目でも判定を行うため、2回の合否判定を受けることができます。
--情報プラス型を受験した人には、どのような特徴がありますか。
今回は情報理工学部の入試結果についてお話しします。
情報理工学部の受験者のほぼ半数、100人弱が情報プラス型を選択して、約40名が合格しました。競争率は2倍強です。
特徴としては、英語・数学の2科目で合格した人と比較すると、英語・数学・情報で合格した人の方が、入学する率が高かった、ということがあります。

これまで情報理工学部では、スタンダード2科目型の入学率は大体20%でしたが、情報プラス型で合格した人は約半数が入学しており、情報系、あるいは京都産業大学への志望度合いが強かったと見ることができます。
情報理工学部では情報の配点が200点、英語と数学が計200点ですので、情報の比率が高くなっています。これについては、英語・数学のいわゆる「受験競争力」が低めの学生が多く合格してしまい、そうした人ばかり入学するのではないか、という懸念もあります。
ただ、私たちが情報プラス型のボーダーラインを決める際に確認したところ、結果的に合格者は、英語か数学のどちらかではある程度以上得点できていることがわかりました。決して情報だけができていればよい、というわけではありません。ある意味、情報プラス型を受験した人の多くは基礎学力も高かったことになります。
ですから、合格者の上位層がごっそり抜けてしまう、というわけではなくて、入学してほしい層の定着が良かった、ということになり、大学としてはとてもありがたいことです。
2026年度は、公募推薦入試の第1日目に「情報プラス型」を導入します。こちらは全問マーク式で実施します。一般選抜入試の情報プラス型も、2025年度と同様に実施します。問題セットを2つ作る必要がありますが、一般選抜入試と公募推薦入試の両方で同じように定着率が高いという傾向が見られるのであれば、入試運営にとってもさらに良い方向だと思います。

※2026年度公募推薦入試「情報プラス型」
https://www.kyoto-su.ac.jp/news/news-001082.html#sec01
--受験者の層や地域性に変化はありましたか。
きっちり分析したわけではありませんが、出願者の地域が広がりました。また、同じ地域からでも、これまで受験実績のなかった高校からの受験者が見受けられました。さらに、同じ高校から何人も受験するわけではなく、かなり分散している印象です。
今はインターネットで入試情報をいくらでも拾えるので、進路指導で勧められたからというより、自分の判断でチャレンジしたい人が受験してくれたのかもしれません。
--貴学は2016年度入試から、「情報科目試験型」AO入試で、ペーパーテストによる情報の学力試験をされてきた実績があります。今回一般入試に情報を導入するにあたって、何か考慮されたことはありますか。
情報理工学部では、2016年度から2024年度まで、「情報科目試験型」のAO入試を実施していました。これは、一次選考として資格等実績の書類審査と、60分で6問を解かせる筆記試験を行い、一次選考に合格した人に対して、後日教員3~4人による30分の面接を行うというものです。
問題難易度は、毎回一次選考で半数以上が不合格となるという、まさに「ガチ」なものでした。その後、面接では教員が「どのように解いたのか」「この解答にはどんな意図があるのか」といったことを聞いて、プログラミング経験を含めた理解度を確認しました。もちろん、提出書類の内容も見ますが、資格や実績と試験の成績はほぼ一致していました。
もともと我々は作品提出型のAO入試を行っていましたが、筆記試験の入試を始めた背景には、情報学的な考え方に基づいて思考しているかどうかを見たい、ということがありました。
今回の一般選抜入試では、AO入試で出題した問題よりも少し易しめにしましたが、それでもかなり難しかったようです。特にプログラミングは、思ったよりできていませんでした。ただ、共通テストでもプログラミングの問題の成績は良くなかったので、受験生全体の傾向かもしれません。
得点分布を見ると、高得点層がやや薄くなっていますが、特にプログラミング問題など、難易度の高い大問での得点率によって差がつきやすくなっていたことがうかがわれます。

ただ、今後問題集や模試などで情報の問題形式に慣れてくることで、ある程度準備した人は解けるようになってくると思います。逆に、あまり易しくし過ぎると、得点差がつかなくなり、選別がうまくいかなくなるおそれもあります。
※2025年度「情報プラス型」問題および解答例、講評
https://www.kyoto-su.ac.jp/mt_uploads/ippan_joho2025.pdf
--プログラミングで点が取れないまま、情報理工学部に入学した学生が苦労するということはないでしょうか。
私たちの学部に関しては、プログラミングかデータサイエンスのどちらかが長けていれば、資質として十分と考えています。
確かに、プログラミングが全く分からないと、1、2年次の必修であるプログラミング演習系の授業は辛いかもしれません。ただ、1年次のプログラミング演習は初学者向けであり,入学時点でプログラミング経験がない人の受講を前提に設計していますから、そこを乗り越えれば、データ分析に強い人は、それを活かせるゼミがたくさんあります。我々は、どちらかができることが見たいので、入試でもプログラミングとデータサイエンスの両方を強めに出題しています。
--その意味で、入試で学部がほしい資質・能力に絞って出題する、ということは考えられるのでしょうか。
個人的には、私立大学の入試戦略としては、それもアリだと思います。どんなに易しいとしても、プログラミングが出題されるというだけで、最初から受験を避ける人は一定数いると考えられます。
プログラミングが嫌だ、という理由でデータサイエンスに強い学生が逃げてしまうことを避けたいのであれば、データサイエンスに寄せた問題だけ出題する、ということも可能でしょう。そこは本当に学部のアドミッションポリシー次第だと思います。
その意味では、むしろ国公立大学の方が、個別試験で特色を出しやすいかもしれません。共通テストで万遍なく問うているのだから、個別試験で同じことを問う必要はない。自分の学部でほしい力を堂々と問えばよいと思います。
大学としては、プログラミングの経験も大事ですが、だからといってコンピュータの実務能力者を取りたいわけではありません。ゲームが好きであっても、コンテンツを消費するのでなく、創ることのできる人に来てほしいのです。
いろいろな大学の情報の入試問題を見ると、コンピュータサイエンスや数理的な要素を問おうとする出題傾向が見られます。情報の個別試験では、この方向性が定着して、それに答えるように準備して受験する学生が増えるのが望ましいと思います。いずれにしても、今までは個別試験で情報の力が問えなかったので、情報で入試ができるようになったのは、情報系の学部にとっては、とてもありがたいことだと思います。


