
武蔵大学 国際教養学部 東郷 賢 学部長インタビュー
■ 国際バカロレア(IB)との親和性――「自分の頭で確かめる」こと
--東郷先生は、国際バカロレア(IB)の教育プログラムを高く評価されていますね。「知の理論(Theory of Knowledge:TOK)」などは、まさに先生が先に言及された「思考の型」に通じるものがあると思います。
東郷学部長:国際バカロレア(IB)の教育プログラムは本当に素晴らしいカリキュラムです。あるIB校出身の学生が、「IBの高校から来た学生は、人の言うことを鵜呑みにしてしまうことがなく、自分の頭で考え、調べている」と気づいたそうです。IBでは、どんな情報に接しても、「それは本当か?」と立ち止まり、自ら確認する習慣が自然と身につきます。
この「人の言うことを鵜呑みにせず、自分の頭で確かめる」という批判的精神こそ、今の日本社会に最も欠けているものではないでしょうか。PDPが目指す学びも、まさにこの姿勢を前提としています。ですから、PDPは、IBディプロマを取得した高校生とは非常に相性が良いと感じています。
IB生向けの選抜方式を用意
--IB生に対する入試上の配慮や制度はありますか。
東郷学部長:武蔵大学では、国際教養学部を対象に「総合型選抜 国際バカロレア利用入試」を設けています。IB Diploma Programme(DP)の資格取得見込みの方・既取得者に加え、2026年度からはMiddle Years Programme(MYP)履修者を対象とした入試も実施します。いずれも専願ではないため、他大学との併願も可能です。DPは書類と面接(主に英語)、MYPは書類、筆記試験と面接(日本語および英語)で行われます。
また、IBディプロマ取得者については、希望すれば、1年目のファウンデーション・プログラムが免除され、専門課程からスタートできる仕組みになっています。これにより、ロンドン大学の学位を実質3年間で取得しつつ、武蔵大学での学びを4年間(必要に応じて+1年)かけて深めることが可能になります。
IB校やMYP校で学んだ高校生の皆さんには、ぜひ積極的に武蔵大学国際教養学部にチャレンジしてほしいと考えています。
■ 日本の停滞と高等教育の役割――なぜ大学生は勉強しなくなったのか
--先生は、PDPを立ち上げた背景として、日本経済の停滞への危機感を挙げておられますね。
東郷学部長:私の専門は経済成長論です。データを見ると、日本の1人あたり実質所得は1990年代後半以降ほとんど伸びておらず、シンガポール、台湾、韓国といった国々に次々と追い抜かれてきました。この「失われた30年」の間に、社会の中核となったのは、大学時代にあまり勉強してこなかった世代です。
もちろん、経済停滞の原因は複合的ですが、「勉強しない大学生」を大量に生み出してきた高等教育のあり方も、無関係ではないのではないか――そう考えています。大学受験が「勉強のゴール」になってしまい、大学に入った瞬間に学びを止めてしまう。その延長線上に、「社会人になってからも自己投資をしない」という構造があるのではないでしょうか。本来、勉強は受験のためにするものではなく、わからないことをわかるようになるためにするものだと考えています。
大学は「エリート」を育てる場である
--大学が本来果たすべき役割を、どのように捉えておられますか。
東郷学部長:大学は、本来「社会のエリート」を育てる場所です。ここでいうエリートとは、単に偏差値が高いとか、有名大学を出ているという意味ではありません。社会を支えていく気概を持ち、人の話を鵜呑みにせず、自らの頭で考え、行動できる人のことです。
そのような人材を育てる責任を、大学は真剣に自覚しなければなりません。その第一歩は、「大学は勉強するのが当たり前の場所だ」という、ごくシンプルな前提に立ち返ることだと思います。PDPは、その当たり前を取り戻すための一つの具体的な仕組みだと位置づけています。


