
武蔵大学 国際教養学部 東郷 賢 学部長インタビュー
■ 「学びの質」への回帰――世界標準の学習量とコミュニティ
「1日2時間」を続けられるかどうか
--PDPの学びは非常に厳しいと聞きます。学位取得の成否を分けるポイントは何でしょうか。
東郷学部長:結論から言うと、「1日2時間の予習・復習を継続できるかどうか」に尽きます。PDPの要求水準は、決して特別なものではありません。アメリカやヨーロッパ、アジアの主要大学の学生たちが日常的に行っている学習量に、ようやく日本の大学生を合わせていこうとしているだけです。
日本では、大学1年生の多くが週5時間以下しか予習・復習をしていない一方、アメリカでは週11時間以上学習に充てる学生が多数派だと言われます。PDPは、この「世界標準への回帰」を本気で求めているプログラムです。昨年の7期生では、12名の学生がPDPの学位を取得し、卒業していきました。

「正解のない問い」にエッセイで答える
--学びの中身という面では、どのような力が求められるのでしょうか。
東郷学部長:ロンドン大学の試験は、例えば「市場経済と計画経済のどちらが望ましいか」といった、唯一の正解が存在しない問いに対して、エッセイ形式で答えることを求めます。評価されるのは、1年間かけて学んだ経済学や統計などの知識を総動員し、自分の立場を明確にしながら、論理的な文章で相手を説得できるかどうかです。
つまり、PDPは「考える力」そのものを鍛えるプログラムです。暗記型の試験対策とはまったく異なる訓練を通じて、批判的・論理的思考力を徹底的に磨いていきます。
仲間づくりこそ、最大のサバイバル戦略
--そのような厳しい環境では、仲間との協働も重要になりそうです。
東郷学部長:その通りです。PDPでは、仲間づくりが学習戦略の中核と言ってよいくらい重要です。私たちはグループスタディ用の部屋を用意し、学生同士が教え合い、励まし合う文化が自然に生まれるような環境づくりに力を入れています。学年全体の雰囲気が良く、お互いを支え合えるコミュニティが形成されている年度ほど、ロンドン大学の学位取得率も高い傾向があります。
PDPには、大学受験で第一志望に届かず、「リベンジしたい」という思いで入学してくる学生も少なくありません。ある都立トップ校出身の学生は、PDPで学位を取り、大手企業の就職が決まったとき、「これでようやく高校の同級生と同じ土俵に立てた気がします」と語ってくれました。仲間とともに困難を乗り越え、成功体験を共有することが、彼らの大きな支えになっています。
■ 卒業生の活躍と「5年間の学び」――就職・進学という出口
外資系から国内大手、海外大学院まで広がるキャリア
--PDP卒業生の就職や進学の実績について教えてください。
東郷学部長:PDPの卒業生は、外資系コンサルティングファームやIT企業、国内大手企業など、幅広い分野で活躍しています。具体的には、
● アクセンチュア
● KPMGコンサルティング
● Adecco Singapore
● NTTドコモ
● NTTデータグループ
● 京セラ
● SUBARU
● 大日本印刷
● 楽天グループ
などの企業に就職しており、キャリアパスは多様です。
進学では、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)をはじめ、University of Southampton、The University of Edinburgh、東京大学公共政策大学院など、海外・国内の大学院に進む学生も出ています。ロンドン大学の学位は国際的な評価が高く、さらなる学びへの「パスポート」として機能していると言えるでしょう。
「そんなに勉強してどうするの?」という周囲の違和感
--一方で、日本の就職市場や社会との間にはギャップもありますよね。
東郷学部長:ありますね。まず、ロンドン大学の学年暦(9月~翌5月)と日本の就職活動のスケジュールがずれることによる負荷があります。加えて、周囲の無理解という壁も小さくありません。
高校時代の友人から「そんなに勉強ばかりしてどうするの?」と言われ、焦りを感じる学生もいます。さらには、保護者の方から「大学生なのだから、サークルやアルバイトでコミュニケーション能力を磨くべきだ」と諭され、「先生、うちの親に説明してください」と相談されることもあります。彼らの親世代の多くが持っている「大学は人生の夏休み」というイメージと、PDPが求める学びのスタンダードとの間に、大きなギャップがあるのです。
しかし、だからこそPDPで4年~5年を「本気で学んだ」という経験は大きな差別化要因になります。世界標準の学びをやり切ったという自信と、英語で経済・経営を論じられる力は、国内外の企業や大学院で高く評価され始めています。


