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「食は総合科学」の時代に 文化、科学、DX、そしてデザイン&コミュニケーション

まとめ

近年の大学のさまざまな取り組みについてみてきた。では、これからの方向性を考えてみよう。

総合科学としての食にさらに今後加わっていきそうな分野・切り口として考えられるのがデザイン&コミュニケ―ション=伝える・巻き込む力ではないだろうか。

農林水産省は、将来にわたり日本の食を確かなものにするために、消費者、生産者、食品関連事業者、日本の「食」を支えるあらゆる人々と行政が一体となって、考え、議論し、行動するための取り組みとして2021年から「食から日本を考える。ニッポンフードシフト」をスタートさせている。

https://nippon-food-shift.maff.go.jp

多彩な取り組みが継続的に全国各地やネット上で行われているが、ここで注目したいのが2022年10月に開催された「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2022」での京都芸術大学による展示・体験ブース「シ展。2022-2023」である。

「これからの食とデザインを、様々なシテンで考えてみる」ことをテーマとし、デザインを学ぶZ世代による「食料安全保障や価格転嫁」に関する探求成果のグループ展として、生産者や食品関連事業者へフィールドリサーチを行い、これからの食をデザイン視点で考え直すプロジェクトで、同大学芸術学部の情報デザイン学科の学生たちが中心となって手掛けたもの。

指導にあたった教員の1人、村川晃一郎氏は、以下のように語っている。

「課題がどこにあるのか、どのようにしたら人に伝わり、また見た人の考え方が変わるのか、そういったことを、デザインを行う際に用いる思考や手法でひも解いていくと、新しいアプローチができるのではないかと思いました。デザインを学ぶ学生たちは、思考したものをアウトプットする能力を持っているので、食の問題に対してもきっと課題解決につなげられると思います」

この「シ展。2022-2023」は、さらにこの後、2023年1月開催の「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES.兵庫」でも発表・展示が行われた。

https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2302/spe1_03.html

https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/1072

「シ展」では10チームによる様々なシテン(視点)のプロジェクトの展示・発表が行われ、いずれも芸術系の大学ならではのカラフルでアトラクティブなものが揃った。

なかでもチームCの「選択の支点」と題するプロジェクト、「食品添加物」「遺伝子組換え」「慣行農業と有機農業」「国産と輸入」「食料自給率」の5つのテーマについて調べ、是非や可否を述べるのではなく、すべての物事には裏表があることを踏まえ、食の現状を回転パネルにデザインして、「あなたはどう思いますか」と意識喚起をする展示などには、個人的に視覚デザインの強みを感じさせられた。

テーマ「選択の支点 知る、選ぶ、食べる。」 https://www.maff.go.jp/kinki/photo/kekka/230118.html より

これは一つの事例であるが、専門家だけでなく一般人にも広く関わる食のような分野・フィールドを総合的に扱うためには、専門家として新しい価値を産み出し、それを評価・可視化することはもちろん、さらにわかりやすく表現し伝える力がなければ、持続可能なサイクルは生まれない。

今後は「文系⇔理系」「情報・DX」+「デザイン(思考)&コミュニケーション」まで視野に入れたSTEMな学びが増えていくのではないだろうか。


記事:満渕 匡彦(KEIアドバンス コンサルタント)

<著者プロフィール>KEIアドバンス コンサルタント。学校法人河合塾、またKEIアドバンスを通じて、長年に亘り入試動向分析や学部学科新設検討などを担当。趣味はチェロ演奏。

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