「公営塾」研究プロジェクト

 Q:学校の先生になりたい人が減ってきており、学校という職場の「ブラック」さが指弾され、教員の「働き方改革」が進められようとしています。公営塾の存在は、そのような動きと関連しているのでしょうか。つまり、学校の先生に補習をやらせることができなくなっているから、「塾」を作ってやらせようとか。

学校の働き方改革と言われる動きは、この2、3年、活発になってきていますね。働き方改革よりずっと前から、学校内補習塾や学校内進学塾のような形態の塾が生まれ、土曜学級などの名前で、予備校の先生が入試対策を行なうような学校もありました。

しかし、公立の学校内で学習支援を実施してしまうと、ただでさえ労働時間が非常に長いと言われている日本の教員の負担が更に増えてしまう可能性があります。したがって、公営塾が学校とは別に設置される場合には、教師の長時間労働の解消という点においてもメリットがあるということだと思います。

Q:さきほど、教育における公私の境界線がゆらいでいる、というお話をいただきましたが、これは、少子化・人口減少、地方の過疎化、地域間格差などの社会問題が深刻化していることと関連はあるのでしょうか?

私たちは、公営塾をめぐる状況を「社会問題の教育化」という視点から見たいと思っています。「社会問題の教育化」というのは、何か社会で問題が起こった時に、それを教育に解決させようとする現象のことです。例えば、環境問題が深刻になれば、環境教育を実施することなどです。なにか社会問題があると、「教育が悪い」となるのは、このような現象の一面と言えるかもしれません。

多くの公営塾は、地域格差の是正や、地元の人材育成などを目的に掲げていますから、この意味で、社会問題の教育化の例と言えるのではないかと思っています。このことによる弊害や、新たな課題が生まれないのか、という課題意識です。というのも、似たような現象で、「社会問題の医療化」というのもあります。これは、社会問題の解決の責任を医療に負わせようとする現象のことですが、社会問題の医療化の結果、人々はより健康的になったわけではなく、医療への過度な依存が生まれたという議論があるからです。

これと同じで、社会問題の解決法を教育にゆだねるのは、教育サービスの消費と依存を加速させることにつながります。重要なのは、どの課題が解決されているか、冷静に見ることだと思います。

Q:今後の研究の方向性について教えてください。

こうした調査は、長期的な、定点調査が必要です。この研究は今後も継続していきたいと考えています。今回の調査では、はじめて全国の公営塾の実数がわかりました。しかし、まだ、第一弾の調査です。第2弾の調査では、今回の調査結果も踏まえ、公営塾の具体的な内実についても調査・分析をしていきたいと思います。

また、各自治体の公営塾は、さまざまな特長があり、いろいろな実践を行なっていますが、そういった事例を横のつながりで共有していく仕組みはまだありません。本調査がきっかけになって、公営塾のポータルサイトや合同での研究会、事例交換会などが実現したら嬉しいですね。


インタビューと構成・記事 原田広幸(KEIアドバンス コンサルタント)

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