なぜ女性弁護士は少ないのか? 法学教育の今(早稲田大学)
女性の「合格率」を上げるという問題
◆:今から5年前、2018年に全国の大学医学部で不適切入試が明るみにでて問題になりました。不正の原因として言われていたのは、男子学生の点数に下駄を履かせないで、入試の点数順に合格させてしまうと、合格者の6割が女性になってしまうんだと。そこで、男性を多くとりたい医学部は、女性の点数が不当に低くなるように点数操作を行なってきました。つまり、女性の合格率の低さは、不当な差別の結果だったんです。こういったことは、司法試験の世界でもあるのでしょうか。
石田:「合格率」については、すごくデリケートな問題があります。たとえば「黒人の方が白人よりも成績が悪いんだ」と誰かに言われると、言われた当人の成績が本当に悪くなってしまうということが起こり得るとアメリカでは実証されています。だから、私はあまりネガティブなインパクトを与えたくないと思って、データの出し方にはすごく気を付けています。実際のデータ上は、合格率は女性の方が少し低いです。
しかし、何で低いかと言うと、様々な複合的な要因があるようで、必ずしも「女性だから」に起因しない要因も多いと考えています。
ロースクールは、法学部を出た人や素養がある人が行く2年制のコース「既修コース」と、法学未修者が行く3年制の「未修コース」があります。ただ、もともと法学部に女性が少ないこともあり、ロースクールに進学してくる女性は、「未修コース」に進む人が多いんです。法学部を出た人は学部4年と大学院2年で6年間、法律を学んでいますので、「未修コース」3年間だけの法律の学習で司法試験を目指す人よりも、断然有利です。
合格不合格を決める点数は、どこで差がついているかも明らかになっています。司法試験は1次の短答式問題(選択肢から選ぶ知識問題)と、2次の論述式問題があって、不合格者の女性は、今までのところ、差が出ているのは短答式のようなのです。つまり、短答式は、膨大な量の知識を詰め込む長いプロセスが必要なのですが、もともと法学部に進む女性が少ないため、女性受験生の多くは、既修コースの受験生よりも少ない学習時間で短答式に臨むことになる。ここで差がついているのではないかと思っています。
ただ、早稲田の内部生のデータを見てみると、本学の卒業生の場合は、短答式も論述式も、男女にほとんど差がありませんでした。このデータは、実は今年初めて確認することが出来たので、今後の教育内容に活かしたいと思っています。