なぜ女性弁護士は少ないのか? 法学教育の今(早稲田大学)
早稲田大学の取り組み~早稲田大学大学院 法務研究科教授 石田京子さんに聞く【後編】
日本のジェンダー・ギャップ指数の圧倒的低位が問題となっているが、実際、女性弁護士の割合は全体の19%に過ぎない。このように、法曹界はいまだ圧倒的な男性社会である。将来の法曹候補者を育成する日本の「ロースクール」(法科大学院)での取り組みについて、早稲田大学大学院・法務研究科教授の石田京子さんに聞いた。
早稲田大学 法務研究科での取り組み
◆:早稲田大学では、女性法曹を増やす取り組みをされており、石田先生は中心的に関わっていらっしゃいます。くわしく教えてください。
石田:早稲田大学法務研究科では、2015年から「女性法曹輩出プロジェクト(Female Lawyers Project=FLP)」(リンク:女性法曹輩出促進プロジェクト (waseda.jp))に取り組んでいます。早稲田大学から女性法曹を輩出していく試みで、文部科学省からも高い評価を受けています。私はこのプロジェクトの担当者を拝命しており、法務研究科の執行部としても力を入れている取り組みです。
◆:大学だけでなく文部科学省も女性法曹を増やすことに力を入れているんですね。
石田:早稲田大学で「女性法曹を輩出促進するプログラムを組みます」と提案して、それが評価された、ということだと思います。文科省は、つい最近までは、それほど女性、女性、と言っている印象はなかったのですが、最近は問題意識を持っているようです。やはり国の政策としても男女共同参画の促進は強調されるところなので、この課題が強く認識されたのだと思っています。
早稲田大学は全学的にもダイバーシティ推進を掲げています。全学部対象の授業として、「ダイバーシティを学ぶ」という授業や「LGBTをめぐる法と社会」という授業も開講しています。後者の授業では、「LGBTとアライのための法律家ネットワーク(LLAN)」という組織の弁護士さんとコラボレーションをしていて、結構人気の講義です。
Lawyers for LGBT & Allies Netwotrk | LGBTとアライのための法律家ネットワーク (llanjapan.org)
ちなみに、LGBTをサポートする人のことを「アライAlly」と呼ぶんですね。同盟とか仲間とかそういう意味ですね。LLANという団体には、同性婚訴訟の代理人や支援をしている弁護士も多くいます。
◆:取り組みの実態とその成果としてはどのようなものがありますか?
石田:一部、弁護士ドットコム(早稲田大ロースクール、女性の司法試験合格者「4割超」の裏側 – 弁護士ドットコム (bengo4.com))に書いてもらったことと被ってしまうのですが、この取り組みには3つの柱があって、1つは、社会で活躍している大先輩を呼んできて行なうシンポジウム。2つめの柱としては、「おしゃべりカフェ」といって、もともと、医学部でこういう試みがあると聞いて始めた取り組みです。
女性の法曹が増えない1つの原因は、女性には身近なロールモデルがいないことがあると考えています。実際に、法律家の先輩を身近で探そうとすると、ほとんどが男性弁護士だったりします。そこで、女性弁護士をもっと身近に感じてもらうため、女性で早稲田卒の法曹の方にランチタイムなどに待機してもらって、在学生に来てもらい、自由に話してもらいます。勉強のことだったり仕事のことだったり、なんでも相談することができる。これが「おしゃべりカフェ」です。
そして、3つ目の柱は、具体的な教育支援です。ロースクールの学生が妊娠して出産するとなると、一旦休学せざるを得なくなるのがほとんどです。しかし、休学をすると、大学のサービスは一時的に使えなくなってしまいます。在学中の学生には、AA(アカデミック・アドバイザー)という、ロースクールを出て弁護士になった若手の支援者が学生の学習支援を行なう制度があり、司法試験の論文の対策を教えるなど、いろんな支援をしていますが、そういう制度が、休学中は一切使えなくなってしまう。
しかし、これは出産した学生のモチベーションを維持するという面でも、大きな不利益になります。そこで、出産のため休学した学生が、休学中も「法律家になるんだ」という意識を持ち続けられるよう、育休中をふくめたサポートができる体制を予算を付けて整えました。
最近は、ロースクールも若い年齢の学生が主流になっているので、この制度の対象者は年に1人いるかいないか、という状況ですが、こういう支援があることで、子育て中でも妊娠しても、安心して法曹を目指せるんだ、というメッセージが示せると思っています。