オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

大学入試を中心とした情報分野の学力評価手法の検討シンポジウム2025

グループ4「実現性(Feasibility)~評価手法の妥当性の検証~

放送大学 辰己 丈夫教授

講演中の辰己 丈夫教授
辰己 丈夫教授

評価手法の妥当性の検証のために

グループ4は、「実現性」をテーマとしていまして、このシンポジウムのようなイベントや、模擬試験などを行っています。

EMIU情報模試は、G1やG2が開発した評価方法をもとに問題セットを作成して、実際にTAOに組み込んで試験の環境を作ります。また、G3で開発した拡張モジュールの可用性についても検証します。
そこで実施した模擬試験で、G1の「典型的な問い」とG2の「多肢選択問題」の間で相関分析を行い、妥当性の検証を行っています。

また、模試の広報をして参加をお願いしたり、受験してくださった方に対するアンケートの集計や、ヒアリングなどの分析も行っています。


「EMIU情報模試2025春」から明らかになった課題

ここからは、2025年春に行った模擬試験「EMIU情報模試2025春」を振り返って、今後への課題についてお話しします。
まず受験者について。研究倫理の観点から、取ることができないデータがいろいろあるので、受験者の中には、「ひょっとするとこの人は、本当は高校生ではないのではないか」と思われる人もいましたが、これについては、自己申告を信頼するしかない、というところです。

また、模試に参加してくださった高校の先生が、ご自分の生徒の結果を把握したいと思われても、この研究は、プロジェクトのリーダーである植原先生が所属される慶應義塾大学SFCの研究倫理委員会の規定に沿う必要があるため、メールアドレスなど個人を特定する情報を取得していないのです。研究倫理規定を遵守するため、先生方であっても個人の結果はお伝えできません。

以下のスライドは、今回の模試について慶應義塾大学の倫理委員会に申請した項目です。特に難しいのは、高校生は未成年なので、保護者の同意書をいただかなければなりません。その手間がかかるため、本当は学校単位で参加をお願いしたいのですが、それができません。

現在、「EMIU情報模試2025秋」を実施中です(※本記事の掲載時点では、すでに実施を終了しています)。前回までと同様に、インターネットにつながったパソコンを使って、CBTで実施しています。パンフレットも作成しました。ぜひダウンロードしてご覧いただき、ご協力いただけるとありがたいと存じます。

 ※・EMIU情報模試2025秋 パンフレット
  ・「『EMIU情報模試2025秋』の実施について」


CBTによる模擬試験を経験する意味

現在実施中の「EMIU情報模試2025秋」は、正直なところ、現状、受験者数の確保に苦戦しています。先ほど植原先生からお話しいただいたように、2025年春に実施した模擬試験は、2月から3月で実施する予定でしたが、受験者数を増やすために4月末まで延長したので結果的に学年をまたぐことになってしまいました。今回は、学年をまたぐことなく、また受験勉強にも役立つ時期としてこの10月・11月の実施を決めたのですが、実際は受験者が全く集まっていない状態です。

今年受験者が減っている理由としては、これは推測なのですが、他の予備校や業者の模擬試験が充実してきたことが原因ではないかと考えています。
現在は、お金を出せば、PBTではありますが、模擬試験が受けられて分析もきちんとしてくれます。昨年度は、いろいろな模擬試験が始まっていたとはいえ、いずれも「初物」だったので、とりあえず我々のものも受けてみよう、ということだったのではないか、と考えています。

一方、先ほどG1の谷先生の話にもありましたが、我々の模擬試験の平均点は、共通テストや他の模擬試験に比べて若干低めに出ています。これは、もしかすると、私たちが作っている試験は、共通テストよりも個別試験に近いのではないかと考えます。作問にあたって、そのような意図はしてはいませんが、結果的にやや難易度が高めになっているかもしれません。

我々の試験と、予備校などの模擬試験が違うのは、やはりCBTであること。先ほどG3の西田先生のお話にもありましたが、「CBTならではの問題」が出題されていることです。

ここで、私たちが採用しているCBTシステムのTAOについて説明させていただきます。文部科学省が、毎年全国の小中学校で実施する「全国学力・学習状況調査」は、現在CBTで実施されています。この試験は、高校の先生方にはあまり身近ではありませんし、大学の教員にとっては、さらに興味がないと思いますが、小中学校の先生方や、お子さんをお持ちの方は皆さんがご存知です。

「全国学力・学習状況調査」は、2007年度から始まった、小学校6年生と中学校3年生の4月に実施される悉皆調査、つまり全員が受験する調査です。 この調査の目的は、「義務教育の機会均等とその水準の維持・向上の観点から、全国的な児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することによって、国や全ての教育委員会における教育施策の成果と課題を分析し、その改善を図る」となっています。悉皆調査ということで、小学校、中学校でそれぞれ約100万人ずつが受験します。共通テストの30万人よりもさらに大きな規模の試験です。

この調査は、当初はPBTで行っていましたが、現在はCBT化が進んでいます。下図は文部科学省が公表している工程表ですが、2027年・2028年には、教科調査は全面的にCBTによる実施が予定されています。

質問調査は単純なアンケートですが、2024年度からは全面オンラインに移行しています。つまり、小学生や中学生は、このような試験や調査で、GIGA端末を使って回答するのが当たり前の時代になっているのです。
高校や大学が、これに追いついていけないのではないか、というのが気になっているところです。

この全国学力・学習状況調査で使われているシステムのMEXCBT(メクビット)は、文部科学省と国立教育政策研究所が共同開発して、そこに試験問題を搭載しているのですが、そのCBTの基盤になっているのが、我々が使っているのと同じTAOです。高校の先生方には、CBTの受験経験という意味でも、生徒さんたちに、ぜひ我々の模擬試験の受験を勧めていただきたいと思います。

2026年の模擬試験の予定は、現時点ではまだ決まっていません。2025年度に実施した模試の反省から改善すべき点として、先ほどお話ししたように、CBTのメリットをもっと周知させたい、ということがあります。そして、受験したらすぐ成績がわかる仕組みを作りたいと考えています。


インタビュー記事:小松原 潤子(KEIHER Online 編集委員)

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