大阪工業大学ロボティクス&デザイン工学部 インタビュー[後編]
■エピローグ:デザイン思考の発想法
Q:デザイン思考で考えるうえで、先生がよく使われる発想法はありますか。
井上:例えば、はじめの曖昧としたテーマの中から重要キーワードを抜き出すときにはコンテキストマップを用いたり、あるいは世の中の時代の流れを分析するときにはプログレッションカーブを用いたりします。
また、私の授業の中で学生にワークショップとして取り組ませるのが、ヤヌスコーンです。ヤヌスコーンは、あるテーマに対し、その背景を頭に入れ、基礎知識を増やしたうえで新たなデザインを考えていくための手法です。過去のどの年代にどういう社会事象や重要キーワードがあったのかを抽出し、抽出されたキーワードを年代ごとに並べて分析したのち、未来はどうなりそうかを考えます。
そしてヤヌスコーンで考えたあとに、次はコンテキストマップを作るなどのプロセスを、1年生のデザイン思考の授業で経験します。
あとはホワイトスポット。これはいわゆる既存の製品やサービスをマッピングさせて空白地帯を探し、その空白地帯を埋めるような新しいサービスを考えさせるものです。例えば、「未来の乗り物」と聞いたときに何を重要キーワードとして出すのか、それをマッピングしたときにどこが空白地帯になるのかを考えます。これも本学部では1年生で学びます。
Q:アントレプレナーの教育にも使えそうですね。
井上:そうですね。あとは、いわゆるマンダラチャートをやらせてみたりもします。これは、9つある枠の中央に重要キーワードを入れ、その重要キーワードから思いつくアイデア8個を周囲に並べ、その後、さらにその8個をどんどん詳細にばらしていくというものです。大谷翔平選手も使っていましたね。この他にもスキャンパーを用いることもあります。こうしたさまざまな方法を用いながらデザイン思考で考え、新しいものをつくる実践を我々は行なっています。
■コラム
Q:学務や研究から離れたときの時間の過ごし方、あるいは、最近読んだ本や観た映画でお勧めしたいものがありましたら教えてください。
井上:私は普段、ほとんど映画を観に行かないのですが、この前観た『ゴジラ-1.0』は面白かったです。
自分がなぜあの映画を面白いと感じたのか考えていたのですが、まず一つが、あの作品は、単なる怪獣映画ではなく、人間物語が凝縮されているからだということ。あと一つは、ありがちな話ですけれども、日本のVFXもここまで来たんだという感動によるものだと思いました。例えば海のシーンも、やはり私自身の専門が情報技術系ですので、「これはどうやって作っているんだろうか」という視点でも見ておりましたが、どこからがCGでどこからが実写なのか、大きなスクリーンで見ても全く分からず、本当にすごいと思いました。
また、将来こうしたフィールドで本学の卒業生の活躍が見られると、さらに嬉しく思います。「先生、あれ、ぼくが作ったんですよ」という言葉を聞ければ、教員としてはとても嬉しいですね。
大阪工業大学 井上明(いのうえ あきら)教授
プロフィール:
大阪工業大学ロボティクス&デザイン工学部学部長。
大阪工業大学工学部経営工学科卒業、同志社大学大学院政策科学研究科政策科学修士課程修了、同大学院政策科学研究科総合政策科学博士課程中退。2008年、同志社大学大学院総合政策科学研究科博士学位取得(政策科学)。
教育工学者。情報処理学会員、日本教育工学会員、教育システム情報学会員。一般社団法人ReBaLe推進協議会代表理事。
聖泉短期大学、甲南大学で勤務したのち、2017年より大阪工業大学で教鞭をとる。論文執筆、研究発表のみならず、学外での講演にも精力的に取り組んでいる。
受賞歴:
2007年情報処理学会第68回全国大会優秀賞。2008年情報処理学会情報システム教育コンテスト先進教育賞。2019年情報システム教育コンテスト最優秀賞。
インタビュー:満渕匡彦・原田広幸(KEIアドバンス コンサルタント)
構成・編集 :山口夏奈(KEIアドバンス コンサルタント)