TOPインタビュー

国際紛争、大規模災害、少子高齢化など、厳しい状況の中で新しい道を拓くための人材育成・社会貢献に資する大学への期待は大きい。真摯に改革に取り組む大学トップの声を紹介する。

東京女子大学 森本 あんり学長インタビュー[後編]

「自分が最も有効に用いられるあり方で生きたい」 学長職を受諾した背景

東京女子大学の学長職のお話をいただいたとき、正直なところ、行政職に就くのではなく、ICUにそのまま残り、この先も研究と学生への授業を続けたいという思いが半分ほどありました。

残るもう半分は何だったのかというと、あと何年あるか分からない自分の人生について考えたとき、「自分が最も有効に用いられるあり方で生きたい」という思いでした。

「用いられる」という表現は、あまり日本語では人に対して使われませんが、キリスト教界の言葉で、「役に立つ」ということ、ひいては「神様の御用に立つ」ことを意味します。そして、「神様の御用に立つ」とは、結果的に、「社会一般の用に立つ」ことにつながりますよね。

人間それぞれに与えられている能力を最も有効に使うことが、その人にとって最良の人生です。これはアリストテレスの考えた「幸福」の意味でもあります。それが最終的に神様の召命に従うことでもあるならば、私はそういう人生を選びたいと思いました。そうすると、私に「東京女子大学に来てほしい」と言ってくれて、私の能力をそこで使ってくれるのならば、東京女子大学の学長として私の人生の時間を使いましょう、という気持ちになったのです。

人間は皆エゴイスティックに生きているように見えて、その実、本当に嬉しいのは、誰かの役に立っている時なのですよ。自分のしたことで誰かが喜んでくれた時が、やはり一番嬉しいものです。本当に誰でもそうで、たとえどんなに捻くれた人でも、誰かが喜んでくれたときはやはり嬉しいと感じます。私は、自分が学長という職に就くことで誰かが喜んでくれれば、そう思いました。

リベラルアーツについては、前任校時代からずっと考えてきたことや信じることがあるので、私もそれは皆さんに伝えたいと思っています。

本学も、リベラルアーツ教育を実践する大学として出発したものの、戦後は世の中の風潮に引っ張られるかたちで、徐々に一般大学化しつつありました。それを「いや、東京女子大学の一番いいところはここなんだ」と改めて言い直すことで、本学の学生・教職員も皆、「そうだ。我々はミニ東大のような存在を目指しているのではないのだ」ということが分かっていく。その流れの中で、この大学の真の魅力が出てくる。これが理想型なのではないでしょうか。私はこれがやりたい。

ありがとうございます。その点で言うと、私は着任後すぐに、新しいカリキュラムの作成に着手しました。2年という時間を要しましたが、ようやくこの春(2024年4月)から新カリキュラムが始まりました。実際に始まった授業を一つひとつ覗いてきましたが、どれも面白いですよ。中にはまだ軌道に乗り切れていない授業もありますが、まさに今、大学全体を巻き込むかたちで変革が行なわれている最中ですから、今後に期待しています。しかしひとまずは、リベラルアーツの大学らしい新しいカリキュラムが実現できてよかったな、東女らしくていいなと思っています。

一つだけ挙げるとするならば、やはり先ほども申し上げた学生の気質。おしとやかで上品に見えるけれども、良い意味で頑固なところです。「ここは譲れない」という部分を、皆どこかに持っています。常に角を立てているわけではなく、普段はおだやかに生活しているのだけれども、「これだけは譲れない」というものがいつも心のどこかにあり、それが時々垣間見える人たちですよね。先ほどお話した「引っ掛かり」にも通ずるものがあると言えます。

あるいは、「何かの時に勝負をかけられる人」と言い換えられるかもしれません。普段はおとなしくても、「ここぞ」という時には、リスクを取ってでも自分を懸けて、「これはやらなきゃいけないんだ」と思える人です。本学はこれまでもそのような気質を持った人材を輩出してきました。そして、これからも輩出していきます。

それは私にも分かりません。「礼拝が毎日あり、気持ちがすっきりしてから授業を受けているのでそのように育つのですよ」なんて言えればよいですが、多分そういうことではないと思います。

おそらくは、先ほども申し上げた大学全体を包む雰囲気でしょうね。キャンパスのあり方もそうですし、芝生がきれいであることもその一つです。「どれがその要因です」なんて、すぐには言えません。やはり、“Something”です。


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