
東京外国語大学 春名学長インタビュー
--確かに、はっきりしていますね。そこから、考え方は変わりましたか?
春名:はい。教室で授業をやるのだったら、「時間と空間を共有すること」に意味を持たせなければいけない。コロナ禍を経てオンラインという選択肢も出てきた今、空間も共有するメリットを生かすようなものをつくり出さなければ、という点は強く意識しています。これがうまくいくと、教える側もやりがいがあるし、学生も面白いのではないかと思いました。だから、とにかく学生たちに話をさせようと思ったんです。
とはいえ、小さなグループに分けて、一方的に「ディスカッションしなさい」と言うだけでは、少し手抜きというか、いい加減な感じがします。それよりも、どんな大きな教室であっても「私vs.全学生」という形で意見を交わしたいと思うんです。こちらから、何か考えさせるようなこと、例えば「この問題に対して、日本はどうすればいいと思う?」というような質問を投げかける。すると、留学生は色々な意見を言ってきます。そこで「日本の学生はどう思うの?」と振っていったりね。
--そういった授業では、日本人学生も英語で話すわけですよね。
春名:はい。全部英語なのですが、そこが結構難しいところでもあります。結局、留学生ばかり発言する流れになってしまうので、そこでいかに日本の学生に話をさせるかという課題があります。
--やはり、あまり発言しませんか、日本の学生は。
春名:こちらから振らない限り、しませんね。ほとんど発言しないので、ある時から日本語での発言も許可したんです。それで、多少は発言が増えるようにはなりました。
とにかく、わざわざ教室まで来る学生たちと時間と空間を共有するんだったら、そのメリットを最大限生かさないと。そうでないと、大学で学ぶ意味がなくなってしまうのではないかと思います。
■ キャンパスで学ぶことの意味
--オンライン教育では、ミネルバ大学が知られていて、今年から募集を開始したZEN大学は3,500人以上の出願者を集めたと報道されましたが、このような状況の中、「キャンパスで学ぶ」ことの意味は何でしょうか。
春名:コロナ禍に話が遡りますが、当時、留学生はとても苦労したんです。精神面で問題を抱えて帰国する学生もいましたしね。その時に思ったのは、彼らにとって大切なのは授業だけではないということです。授業の余白というか、その前後ですね。学生たちで「おしゃべり」をするじゃないですか。
コロナ禍に限らず、おしゃべりにつながるように、授業で交流をつくっていきたいですね。だから教育は学生生活の全体を視野に入れるといいと思うんです。「やっぱり自分は人と話すのが苦手だ」と感じる学生もいるかもしれませんが、それはそれでいいんです。ただ、私たちにはキャンパスがあるわけだから、オンラインとは違った形の教育を提供したいと思います。
人と人が交わり、顔を突き合わせることによって、より深く腹の中をさらけ出して話すことはできると思うし、それを最大限に生かす場としてキャンパスを使うべきなのではないでしょうか。
--留学生は、部活やサークルにも入っているのですか?
春名:入っていますよ。留学生は、現時点で700人ほどいるんですが、弓道部に入っていたり、フェンシング、バレーボール、剣道をやっていたりする学生もいますね。
Q:東京外国語大学の名にふさわしい、国際的なキャンパスになっていますね。
春名:そうですね。だからこそ、キャンパスがあるのが大事なのかもしれない。ここは「知の府」であるだけでなく、「人がいる」ということですね。