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東洋大学 矢口悦子学長インタビュー[前編]

「哲学する」建学の精神、今も息づく

矢口悦子学長は、コロナ禍の2020年に学長に就任、TOYO SPORTS CENTERの創設など、スポーツマネジメント体制の確立に実績を残し、学部学科の垣根を超えた総合知教育、人生100年創立者である井上円了の建学の精神を現代に引き継ぎ、最先端の科学教育、哲学・教養教育、学生スポーツと多方面において唯一無二の存在感を示す東洋大学。東京・埼玉の4つのキャンパスに、14学部、大学院15研究科、16の研究センターと附置研究所をもち、多様性と知の総合性・融合を目指す。コロナ禍の只中に学長に就任し、さまざまな実績を残してきた矢口悦子学長の類まれなリーダーシップの実像に迫ります。[前編]


今も引き継がれる創立者の哲学

 矢口:「印哲」と言って分かる人が、今どれくらいいるかと思いますが(笑)、その昔、東洋大学の前身である哲学館というアカデミーから今の東洋大学へと変わっていく中で、大学の創立当初から研究が行われていたのが、インド哲学と中国哲学です。現在の東洋大学では、文学部の中に哲学科、そして、インド哲学・文化と中国哲学・文学が統合された東洋思想文化学科を設置し、井上円了先生の哲学を継承しています。

 円了先生は、仏教学を原点に置きながら、アジアの思想だけでなく西洋の哲学思想も同等に大事にしておりました。ソクラテスとカント、孔子と釈迦を四聖とし、洋の東西を問わず、哲学思想の大家に広く学んで、自ら考えることの大切さを説いたのです。現在の学生に対して、哲学書や仏典を読みなさいとは言いませんが、円了先生が目指そうとした「物事を本質に迫って深く考えること」、これこそが哲学である、と伝えています。

創設者 井上円了
仏教哲学、妖怪研究でも有名
創設者 井上円了 仏教哲学、妖怪研究でも有名

東洋大学は、このような考え方を「諸学の基礎は哲学にあり」という言葉で表し、建学の精神としています。学生たちの間にも、建学の精神は浸透しており、この考え方をよく理解してくれていると感じています。卒業時アンケートの結果分析によれば、何に惹かれて東洋大学を選んだかという質問に対して、多くの学生(留学生も含む)が「建学の精神」を上位に挙げています。ここからも、円了先生の理念は、現在に引き継がれているということが分かります。

 現代のような将来の予測が困難な社会では、教科書で習った世界情勢や世界地図が頻繁に変わったり、予想だにしなかったパンデミックが起こったりします。今は、何が本物で、一体どこまで正しいのだろう、というようなことをこれまで以上に掘り下げて考えなくてはいけない局面を迎えています。AIが著しく進化する中で、「人間にとって何が最も大切か」という本質的な問いにしか、立ち返る場所がなくなっており、それを、私たちは「哲学する」と呼んでいます。かつてないほどに、本学の建学の精神が大事な時代になってきているのではないでしょうか。

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