
上智大学 杉村 美紀学長インタビュー[前編]
■ 多様性を重んじる開かれたカトリック大学
杉村:1949年に上智大学の国際部が開設してから70年以上、多くの国際的人材を輩出してきました。今後もその伝統を大切にしながら、時代の変遷を見据え、更に飛躍できればと考えています。
一方、キャンパスが多国籍になると、新たな対応も必要になってきます。たとえばムスリムの学生が増えたことを受け、学内にハラルフードのカフェテリア(東京ハラルデリ&カフェ)を作りました。(注:ハラルフードとはイスラム教で食べてよいとされる食物のこと。)
--カトリックの大学に、ハラルの学食があるんですか?
杉村:最初はハラルフードのキッチンカーだったんです。そのうち、文化の違いへの配慮だけではなく、美味しいと徐々に評判になり、学生たちにも人気がでて、キャンパスの中にハラル認証を受けたカフェテリアがつくられました。このような取り組みも、上智大学の開かれた新しい国際化の一つです。
次の目標として、今後もっと力を入れていきたいと思うことがあります。それは、留学生と一般の日本人学生の交流促進です。日本人学生と留学生のあいだで積極的に交流をしている人たちもたくさんいるのですが、全体でみると、どうしても留学生のグループと一般の日本人学生のグループというのが分かれがちになることが多いようです。
学生の中には、上智大学に入ったら、外国人と交流ができると期待して入学してくる人も多くいます。留学生の側も、日本人ともっと交流して、親しくなっていきたいという気持ちを持っています。両方の要望を受け、彼ら、彼女らがもっと交流がしやすい環境を作っていきたいと考えています。

■ 教育精神:For Others, With Others(他者のために、他者とともに)多様性を重んじる開かれたカトリック大学
杉村:多様性への対応とも言えますが、ひとくちに多様性と言っても、人種や国籍だけでなく、さまざまな多様性があります。ジェンダーはもちろん、例えば障がいのある方や、社会的な弱者と呼ばれるような方も大学に通っています。様々な人たちに寄り添うことも大切です。他者に寄り添い、共にある大学であり続けたいというのは、上智大学の変わらぬ思いです。
「For Others, With Others(他者のために、他者とともに)」というのが本学の教育精神ですが、その「他者」というところには、さまざまな他者が含まれると考えます。昨今、持続可能な開発目標(SDGs)でいわれる「包摂」「インクルージョン」が大切などとも言われますが、こうしたことをより真摯に追求できる大学であり続けたいと、心から願っています。
--政策や思想信条、文化が異なる国々の人同士でも、同じ場で研究・協働できるということは、大学における重要な機能だと思われます。
杉村:目下、国際関係上、さまざまな状況に置かれた国があり、また地政学的にも困難を抱える国がたくさんあります。アカデミアとして大学や研究機関においてできることは、そのような現状を理解し、課題解決のために学問として研究することです。一方、もうひとつ大事なのは未来志向にたった考え方です。大学には、次の世代がいろいろな対立や紛争を乗り越えて、新しい世界を切り拓いていくための文化の土台をつくるという役割もあると思います。
もちろん、「平和構築」と簡単に言っても、そう単純ではありません。いまの世界に平和を回復させるだけでなく、それを維持し、新しく未来志向で平和をつくっていくためには、大学が持っているいろいろな叡智をきちんとつなげていく実践がとても大切になってきます。
卒業後は母国のために貢献したいと考えている留学生もいますし、将来は国連などの国際機関で働くことを希望する留学生もいます。彼ら・彼女らが上智に来て学んだことを、それぞれの母国に持ち帰り、上智大学で受けた教育と自国の教育を合わせて活躍してくれたり、あるいは国の枠組みを超えて国際社会全体に対して貢献したり活躍してくれれば、そんな素晴らしいことはありません。
上智大学が大事にする「隣人性」と言うことには様々な解釈がありますが、私の理解では、たとえそれぞれの立場の違いはすぐに埋めることができなくても、お互いの考えや価値観を相手の立場を考慮しながら共有することであると考えます。「隣人性」を分かち合える場を大学として作りたい。皆が少しずつでもそれぞれの意見を交換し、歩み寄れるための土壌をつくる教育や研究活動が展開できたら良いと思います。