佐賀女子短期大学 今村正治学長[後編]
■大学設置構想とこれからの「佐女短」
Q:四年制大学設置構想について教えてください。
今村学長:まず、なぜ4年制大学なのか、ということですが、これは佐賀の実情に照らしてみれば納得いただけるかと思います。佐賀県の大学進学率は男性42%、女性38%。岩手、沖縄に次いで低い数字です。東京、京都と比べれば、進学率は半分ほど。しかも、県外流出率は80%、県内進学率は16%、驚きの数字です。
大学の数が少ないので、県外に行くほか選択肢がないのです。
佐賀と同じ人口規模の山梨県と比べると、よりはっきりします。山梨県には9校の4年制大学があります。一方、佐賀県の4年制大学は、国立の佐賀大学と私立の西九州大学の2つのみ。しかも西九州大は、子ども学部と医療系の学部なので、4年制大学を志望しても、選択肢は極端に狭いのです。県外に出ると、たいてい地元には帰ってきません。だから、佐賀県の4大設置は、大学進学率を高め、大学進学の選択肢を広げ、佐賀の産業の担い手を自前で育成するためにとしても、とても重要な構想なのです。
今年の2月15日に、武雄市と旭学園とで、会見をおこない、大学の設置に関する覚書締結を発表しました。内容は、両者の協力のもとに、2学部を擁する4年制新大学の設置を構想するというものです。
さらに6月に、大学名称「武雄アジア大学」決定も発表しました。学部は、日本初、韓国を冠した「現代韓国学部」(仮称)――韓国エンターテイメントをはじめ現代の韓国文化や広くアジアのビジネスなどを研究する、「次世代教育学部」(仮称)――教員養成のみではなく、公教育・私教育を視野に、チーム学校、チーム教育を推進する多様な教育専門人材の育成をめざす、2学部です。
2月の段階では、「最短でも2025年4月開学をめざす」としていましたが、文科省の設置基準の厳格化に対応して準備を万全に行なうこと、建設事情の厳しさから工期の遅れなどのリスクを極力回避することなどから、改めて開学を2026年4月と定め、8月7日の会見で発表しました。
Q:とくに地元にとっては、とても公共性の高い事業ということですね。
今村学長:そうですね、とても意義のある事業だと考えています。高校まで頑張って育ててきた若者の多くを、受け入れる大学が少ないために、県外に放出していたのです。もちろん、県外に出ていく若者を無理に引き留めることはできませんが、できるなら地元に進学し、勤めたい、という若者は多いし、それで親の経済的負担も楽になります。
Q:4大になると、いまの短大はなくなるのでしょうか。
今村学長:4年制と短大併設というカタチを追求したいと考えています。なぜ短大を残すのか?最近、都市部では、相次いで短大が閉鎖されています。しかし、依然として、地方では、短大の存在意義は非常に大きいと思います。
私は、こちらに来るまで、4年制大学しか知らないで来ましたが、今は、佐賀県のような地方の教育と福祉を支えているのは短大だと実感しています。小学校教諭、幼稚園教諭、保育士、養護教諭、リハビリや介護人材など、短大が無くなればどうなるのでしょうか。介護人材の多くは外国人留学生でもあります。
本学の場合、介護福祉を学ぶ学生の70%は、ミャンマーやネパールなどからの留学生です。彼女らは、地域の福祉にとってまさに金の卵。卒業後は、佐賀の老健施設などで働いています。こういた人材が、佐賀の福祉を支えているんです。
まだまだ厳然とある都市と地方の経済格差、その中で2年間で、資格やスキルを学位とともに修得できる短大の存在意義は大きいと思います。
また、現在さかんに言われ始めた「学び直し」、「リスキリング」にも、短大はフィットするんじゃないかと思います。時代に噛み合い始めたのかもしれません。
実際、本学でも、高卒すぐ働きに出て、30代過ぎで短大に入りなおし、資格を取って再就職する、という人も多いんです。県からの学費など手厚い支援制度もあります。
偏差値に取り憑かれた人から見れば、地方の短大を低偏差値ということだけを見て、一面的な評価をする向きもありますが、どうぞ、佐賀女子短期大学に見に来てください、真剣に直向きに学んでいる学生がたくさんいますよとアピールしたいと思います。短大の役割は、まだまだあるんです。いや無限です。
Q:気概のある今村学長が短大に来られて、学生や職員の方々の意識は変わりましたか?
今村学長:地方の女子短期大学の「生き残り改革」について、経験もない私には、処方箋など持ちようもありませんし、もともとどんなことも、自分一人でやりきるという人間ではないのです。
まず、全教職員との一人1時間の対話、というより傾聴から始めました。私が全員に話したのは、「この大学はもう延命治療の段階ではない。リスクを覚悟した大胆な改革でしか生き残れない。つまり、9回裏ツーアウトランナー無しみたいな状況なのだから、逆転サヨナラ満塁ホームランを打つような」取り組みが必要だ、ということです。あとは、ひたすら、どんな思いで仕事をしているのか、これからどうしていけばいいのかなどについて声を聞いたわけです。
この対話をもとに、構想企画チームなど体制づくりをしました。次にやったことは、毎月、全教職での学習会です。様々な分野のトップレベルで活躍している方々にお話しいただきました。また、客員教授制度もすぐに導入し、谷口真由美さんなど、常識に抗い、創造的な活動をしている方々を招きました。外からの風をビュンビュン吹かせるためです。改革は上からは降りてこない、自分たちで考えなければならないということを理解してもらうためでした。構想について具体的な検討を介したのは、夏が過ぎてからでしたね。
このような取り組みが、教職員の意識改革につながったかどうかは、わかりません。しかし、昨年4月に一人で始めたことを考えると、今は多くの教職員が、自分ごととして懸命にがんばっている。そのことは確かです。
最近、2年目のインタビューを実施しました。印象的だったのは、ある職員の言葉です。「自分の大学は…」と、「私」ではなく、「自分の大学」という主語で考えることが増えたと言っていたんです。嬉しかったですね。だから、教職員の筋力もUPしていると思います。
学生は、どうでしょうね。就任後すぐ始めたHPの「学長なんでもノート」はずっと学生を意識して書いていますし、学生に話す機会があれば、内容をものすごく考えています。昨年夏に制作し、普及している「Be Sunny!」という新しいコミュニケーションマークとステートメントも、学生が使いたくなるデザインを意識して作りました。
短大の改革と新大学設立へのチャレンジに取り組む教職員の姿が、学生の心にきっと響くはずです。
(前編はこちら)
佐賀女子短期大学HP ➡ https://sajotan.asahigakuen.ac.jp/
学長挨拶・プロフィール ➡ https://sajotan.asahigakuen.ac.jp/about/greeting/
学長なんでもノート ➡ https://sajotan.asahigakuen.ac.jp/about/greeting/blog/
今村 正治(いまむら まさはる)
プロフィール
1958年、大阪府生まれ。1981年、立命館大学文学部史学科卒業と同時に、学校法人立命館に就職。財務部長、総務部長、総合企画部長を歴任、立命館アジア太平洋大学設立に携わり、2014年、APU副学長・立命館常務理事に就任。2019年、立命館定年退職後、学園経営コンサルタントとして今村食堂株式会社設立株式会社ほぼ日、札幌慈恵学園・札幌新陽高校などでアドバイザー活動。現在、学校法人旭学園理事、佐賀女子短期大学学長。趣味はロック・バンド。
インタビュー:本山德保,原田広幸(KEIアドバンス コンサルタント)
構成・編集:原田広幸(KEIアドバンス コンサルタント)