沖縄大学 山代 寛学長インタビュー[前編]
--「土曜教養講座」ではどういったテーマを扱っておられるのでしょうか。
それはもうさまざまです。環境問題や基地問題、社会情勢、ジェンダーなど、現在社会的課題となっている、ありとあらゆることをテーマとしています。
--沖縄県全体として言えることかもしれませんが、市民のあり方や知識のあり方と、沖縄のあり方というものが非常に密接に関係している。言い換えると、市民教育として、政治的なイシューをアカデミズムの中で真剣に取り上げる必要がある、そうした土壌が沖縄県にはあったのではないかと推察されます。貴学では主権者教育の講義も実施されていますが、「市民としての教育(シチズンシップ)」の重要性について、先生のお考えをお聞かせください。
国際コミュニケーション学科に、「国際開発とSDGs」という科目があり、そこで学生たちは、「自分たちが地域のために何ができるか」等をテーマにプレゼンテーションを行なっています。私もその授業に参加したことがありますが、皆見事なプレゼンをしていましたね。
またこの科目は、県と本学とのコラボともいえる授業で、県が学生の意見を聞きたいと機会を設定してくれたものでもあります。「子どもたちのために沖縄県は何ができるか」ということにテーマに、学生たちはグループに分かれ、プレゼンを行なっていましたが、どのグループの発表も非常に面白かったです。そして同時に、「沖縄大学の学生って、普段はおとなしそうに見えるけれども、こうした場でしっかりと考えて発表できる子たちなんだな」と非常に頼もしく思いました。チャンスにはしっかりと乗っていくというのが、本学の学生気質としてあるように感じています。
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一方、基地問題などの政治的テーマになると、やはり昨今、学生が大きな声を上げて…、とはなかなかなりにくいのかもしれません。しかし、「沖縄大学憲章(2012年10月29日制定。当初は新沖縄大学宣言)」に、本学の理念として「自立した平和な沖縄を実現すべく、沖縄を軍事基地のない島とする多様な研究提言や実践に取り組む」ということを掲げていますので、それを生かすようなスキームで取り組んでいけたらと考えています。
外部から「教育に政治的な偏りがあるのでは」と言われないよう注意を払いつつ、けれども、「沖縄県民にとって何が一番いいのか」を考えていくこと自体は、非常に重要なことですので、これからも続けていきたいです。
--多様性を保ちつつも、「沖縄の平和のために」貢献できることは一貫して行なうということですね。
それはマストだと思っています。沖縄は第二次世界大戦で過酷な地上戦を経験しました。戦後、言語化すら困難な荒廃の中からの復興を考えた時に、まず必要だったものこそ人材の育成です。このことに鑑みても、戦前は高等教育機関が一つとして無かった沖縄県に、「沖縄で皆等しく学べるように大学を」と考えた本学創設者の意思は、まさに「平和な沖縄」と結びつくものだと思います。
--やはり貴学では、アカデミックな平和学や平和についての研究も行なっていらっしゃいますか。
全学研究プロジェクト班(旧ブランディング事業班)でそういった研究が行われています。これは、本学の専任教員及び職員で構成する「所員」と、学外の研究者で構成する「特別研究員」による共同研究班活動です。文部科学省の「私立大学研究ブランディング事業」を活用し、沖縄大学憲章が掲げる「地域共創・未来共創の大学」の実現に向け、本学の地域研究をさらに推進していくことを目的としています。いくつかの班に分かれ、例えば、「あの地域を盛り上げるためにどういうことをすればいいか」や、「島ゴショウを独自産業化するにはどうしたらいいか」など、さまざまなテーマで研究が行なわれています。
2023年度には「命の未来の平和学」と題された研究プロジェクトが立ち上がりました。この共同研究は、ウクライナ紛争を契機に始まったものですが、ほかにもガザの紛争など、「沖縄だから分かることがいろいろあるはずだ」という立場から、およそ月1回のペースで集まり、平和と戦争、人類と人権、非暴力と自由など、さまざまテーマでフォーラムやワークショップを続けています。
研究支援事業 – 地域研究所 – 沖大について | 沖縄大学 (okinawa-u.ac.jp)
今挙げたテーマ以外にも本当にさまざまな地域研究があります。そして、「土曜教養講座」でフォーラムを開催したり、シンポジウムを行なったりすることが、「こうした研究グループでこのような研究活動をやっていますよ」という発表の場になっているのです。このようなかたちで、研究と地域貢献活動が有機的につながっています。平和の問題に限らず、沖縄が抱える種々の問題について、情報を発信していくための仕組みが整えられつつあるように思いますね。