TOPインタビュー

国際紛争、大規模災害、少子高齢化など、厳しい状況の中で新しい道を拓くための人材育成・社会貢献に資する大学への期待は大きい。真摯に改革に取り組む大学トップの声を紹介する。

武蔵野大学 小西聖子学長インタビュー

■新しい教養の核心は、現代的なツールとの「適切な距離感」と「体験」

小西学長:最も重要なのは、AIやSNSといった現代的なツールに対し、ただ使い方を学ぶのではなく「適切な距離感」を持つことです。まずは、必要な知識を手にして、その対象を批判もできれば主体的に利用もできるようにする。そして、背景にある問題まで理解することが求められます。かつての大学教育におけるリベラルアーツで学生たちが古典などを通じて物事を批判的に見る力を養ったことと、本質は同じです。

そして、もう一つの重要な要素が「体験」です。これにより、「体験の中で学ぶ力」と「問いを立てられる目」が身につきます。本学では、一部の学科を除く1年生全員を対象に「フィールド・スタディーズ 」という必修科目を設けています。学生たちは学部を問わず、国内外の様々な現場へ赴き、普段の生活とは異質な体験をします。卒業時のアンケートを見ると、この体験が学生にとって大きな飛躍のきっかけになっているケースが非常に多いのです。

小西学長:そのような体験不足は、(生き物を含めた)世界との距離感、そして人間関係における距離感の欠如にもつながりかねませんね。人との関わりには葛藤がつきものですが、失敗を恐れてそれを避けていては、関係を築く力は育ちません。多少の失敗は問題ないのだという感覚を、体験を通じて得ることが、新しい挑戦への意欲を生むのだと思います。

小西学長: AIが一般的に利用される以前から、例えばネット上の検索においても、(検索ワードの選択などにおいて)こうした能力は必要でした。AIについても、これを適切に使えるかそうでないかで、格差がさらに広がってしまう可能性があります。だからこそ、学生にはAIを使いこなすための「問いを立てる能力」を身につけてほしいですね。

本学では「響学スパイラル」という概念を全学的に推進しています。これは、「問いを立て、考動し、カタチにして、見つめなおす」というサイクルを繰り返すことで、問いの質そのものを高めていく取り組みです。AIが生成したアウトプットに対しても、「ここに穴があるね」と見抜く人間側の思考力が不可欠であり、その力を大学全体で育成していきたいと考えています。

(次ページへ続く)

関連記事一覧