甲南大学 中井伊都子学長 インタビュー[前編]
--安易に理想論を語ることもできませんし、やはり「人物教育」というものは難しいですね…。しかしながら、苦しい状況下でも、確かな倫理観やしっかりとした軸を持って生きていく人物を輩出していくことが、大学の使命であるとも思われます。この点において、貴学が「人物教育」で育成したいと考える人物像、すなわち、貴学が「人物」というとき、それをどのように定義されているのか教えてください。
本学の「人物教育」における「人物」とは、「社会に出て人の役に立つ人物」です。私たちは、本学の創設者、平生釟三郎の生き様や、彼の残した言葉をとても大切にしております。「人は面白いかありがたいかじゃないと寄ってこない」、だから、「社会にとってありがたく面白い人物になりなさい」でしたり、「どうやって生きていくかといったら、正しく強く朗らかに生きていきなさい」といった言葉です。
平生釟三郎
甲南学園創立者。武門に生まれ、実業家として東京海上保険をはじめとする損害保険業界の近代化に貢献し、川崎造船所の再建を成し遂げ、その名を揚げる。甲南病院の設立等社会事業にも深く関わり、政治においては、広田弘毅内閣の文部大臣として義務教育の年限延長、師範教育の改善を強く提唱した。また甲南幼稚園、甲南小学校、甲南中学校、甲南高等学校を創立したほか、私費による育英事業「拾芳会」を立ち上げる等、教育にも熱意を注ぎ続けた。建学の精神「人格の修養と健康の増進を重んじ、個性を尊重して各人の天賦の特性を伸張させる」
(写真提供:甲南大学)
私たちはこのような言葉をよりどころに「人物教育」を行ない、そしてそれを通して、伝統的な学問から、時代のニーズに合った新しい学問までをしっかりと視野に入れ、学んで、社会に飛び出していく、そんな学生を育てたいと考えています。何かを想定して……というよりは、その時代時代の中で、しっかりと生き抜いていけるだけの胆力を身につけさせること。これこそが本学の「人物教育」における、「3つ(専門教育、共通教育そして正課外教育)をバランス良く」という肝なのです。
時代や社会の変化とともに、少しずつ育成すべき人物像が変わる可能性はありますが、時代に合わせた教育や学問体系を取り入れ、全学共通教育の内容を柔軟に変えています。一方で中心となる専門教育にも力を入れる。そして、正課外教育。まさに、このミディアムサイズ総合大学ならではの学生の交流、学生同士で教え合い、一緒に成長していける雰囲気と環境の下で、3つの教育を一緒に学んでいくことにより、理想の人物を目指していきます。
--つまり、3つの教育をバランス良く学ぶことが「人物教育」となる、という考え方ですね。そうすると、総合大学であることも、やはり貴学の教育方針を表現したものということになるでしょうか。
そうですね。総合大学であることの意味のひとつは、ここのキャンパスに来て図書館に行けば、あるいは食堂に行けば、他学部の学生と話ができる、交流ができるということです。そして、あえて学生同士が交ざりあって同じ1つのワークをするように仕掛けているような、共通基礎演習という授業もあります。
こうした学びの中で、あるいは普段の生活の中で、異なるものの考え方や価値観に触れながら成長できることは、このキャンパスの大きな特徴であると同時に、複雑な社会に出ていくにあたっての、ストレス耐性の涵養にも役立っているのではないでしょうか。
--自分とは異なるバックグラウンドを持つ人に出会う機会があるというのは、とても重要だと思います。具体的に、さまざまなバックグラウンドを持つ人同士が出会う機会として、貴学にはどのような場が設けられているのでしょうか。学内にちりばめられた「仕掛け」について詳しくお聞きしたいです。
2017年に“iCommons”(KONAN INFINITY COMMONS)という学生会館が竣工しました。まさにここが、学生の結節点となっています。学生支援機構やキャリアセンター、学生の正課外活動の部室、さらに1階には大きな食堂があり、本校舎の学生だけでなく、西・北校舎の学生も集まってくる場所です。良い学生会館ができたと思います。