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  • 国際紛争、大規模災害、少子高齢化など、厳しい状況の中で新しい道を拓くための人材育成・社会貢献に資する大学への期待は大きい。真摯に改革に取り組む大学トップの声を紹介する。

関西医科大学 木梨 達雄学長インタビュー[後編]

進取の気性やアウトプットを評価する入試こそ理想

私は入学時の偏差値の高さにはあまりこだわっていません。在学中にどれだけ成長できるかを重視しています。したがって私の目標は、卒業後、どこの大学や病院に送り出しても、自ら学び、成長していけるような人材を育てることです。そうした人は10年後、20年後に、絶対に大事なことをやっているでしょう。

反対に、非常に高い偏差値で入学してきても、進取の気性がなく、安定した路線を希望する若年寄りのような学生が増えてくると、10年後、20年後の日本が危ぶまれます。加えて、そうした学生の多い環境は、教育の場としても不健康で、まったく面白くありません。だからそうならないように、私はこれからも学生たちに「君たちはもっともっと伸びていけるよ」、「ここには伸びる環境があるし、社会はそれを求めているんだよ」と伝えていきます。学長の役割とはそういうものです。

同様に、大学として今後さらに「上」を目指していくにあたっても、偏差値より大学としての実力、すなわち、大学の人材育成力をいかに外部へアピールしていくかが重要だと考えます。「この大学に行ったら伸びる」、「自分の成長を実感できる」といったことが、具体的に大学外部へ伝わり、人材育成力で大学が評価されるようになると、本当の意味で、偏差値が不要になる日が来るかもしれません。

そうすると入試も、偏差値よりもアウトプット、つまりカリキュラムなど大学の描くプロセスに乗ることができる学生か否かが、合否の判定基準となるでしょう。これが私にとっての理想型ですね。

親御さんの大きな期待を背負っていることもあり、特に医学部では、入学後すぐ鬱状態になる学生もいます。それこそ燃え尽き症候群のようなイメージです。

そのような学生には、「まず実家から出て下宿しなさい。新しい環境に身を置き、医学を勉強するとはどういうことか、もう一度ゆっくり考えなさい」と伝えています。そして、新しい環境下でさまざまな経験を積んでいくうちに、何か自分の機微に触れるものが出てきてくれたら、それこそまさに、「成長への合図」ですよね。

しかし今は、高校の段階でどうしても知識偏重になってしまっています。これだと、好奇心を持っている学生は潰れてしまいますね。好奇心というものはやはり、心に余裕がないと育っていきません。好奇心を持つ機会を得て、遊びと融合させながら、自分でも気がつかないうちに志向性がだんだんと育っていく。これが、その人の人生にとって素晴らしいことなのではないでしょうか。

もちろん、学力がある程度必要だというのも確かです。しかし、知識偏重になってしまうと、どうしても自分の目指す方向が見えづらくなります。この点については、今の日本の社会が根本的に変わらなければ、入試制度も変わらないのかもしれません。

けれども、社会に先んじて大学が変わっていくことで、入試制度が変わる可能性は十分にあると思います。それが高校あるいは初等教育にどう影響していくかではないでしょうか。知識偏重型の入試によって燃え尽きてしまった学生が一定数いるため、私としても気にしている部分です。


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