【1校】奈良女子大学 高田 将志学長インタビュー[前編]

「『女子枠』では遅い」 若年期からの「分野認知」が最大の鍵

入学後の学修環境の整備が重要であることは先述のとおりです。また、「女子枠」に関しては、率直に言って、学部生募集の段階で初めて手を打っているようでは遅いと思います。小学生・中学生といったより年若い時分から、理工学系の世界を「認識してもらう」ことが肝要です。

女子が進路として理工学系を選ばないのには、その分野について「知らないから選びようがない」という側面が少なからずあると思います。それゆえ、「枠」のみを設けて待っていても、大した効果は期待できません。彼女らにできるだけ早期から理工学系分野の学びに触れる「機会」を提供すること、大学はここに注力する必要があります。


本学では、三菱みらい育成財団様のご支援の下、東京科学大学、お茶の水女子大学と合同で、「女子STEAM生徒の未来チャレンジ」と題するプログラムを2024年度より実施しています。本事業は理工学系分野において世界に貢献する女子生徒の発掘・育成を目標としているもので、対象は高校1・2年生の女子生徒です。プログラムには、「実験・実習」を中心に据えた合宿型イベントである「みらいの扉キャンプ」と、各大学のオープンキャンパスに合わせて開催される「みらいの扉ビジット」の二つがあります。いずれにおいても、理工学系の学びの楽しさを実感してもらうとともに、自身の将来像をイメージしてもらうことを通して、女子生徒が理工学系のキャリアを選択する後押しとなってくれることが期待されています。

特に、全国から推薦・選抜された高校1・2年生の女子生徒約50人を対象に、2泊3日で実験や実習などを提供する「みらいの扉キャンプ」では、理工学系分野の最先端知識に触れることができる講義や、理工学系分野で活躍している女性研究者に自身の体験をお話しいただく時間を設けることで、理工学系の学びについて知ってもらうことはもちろん、その分野でのキャリアイメージを抱いてもらえるような工夫をしています。また、当該分野で学ぶ女子学生をTA(ティーチング・アシスタント)として起用し、生徒同士のコミュニケーションを促すほか、高校生に最も近い存在として、「少し未来の自分の姿」のモデルにもなってもらっています。

やはり目の前にモデルがあると、キャリアの解像度がまったく違ってくるようです。プログラムの参加者からは、「理系を選択したことに自信を持てなかったが、イベントに参加したことで、自身の将来像が具体性を帯び、モチベーションが上がった」といった声をいただいています。このほか、「理工系の魅力に触れ、視野が大きく広がった」「進路選択にとても役立った」との意見も見られました。こうした取り組みを通して、先人たちの姿を見てもらいながら、将来の可能性を拡げてもらえるよう努めています。

なお、「みらいの扉キャンプ」は3大学が主担当を毎年持ち回りしており、来たる2026年度は本学主管で開催予定です。

加えて、本学は「女子中高生のための関西科学塾」の運営にも携わっています。本事業は、近畿圏の国公立大学5校が連携し、女子中高生の理系進路選択の促進をその目的として毎年開催しているものです。理工学系分野の面白さを実験・実習を通して伝え、女性の職業として理工学系の仕事があることを知ってもらうのはもちろん、その道に興味を持っている仲間が大勢いるという気づきを得てもらいたいと考えています。


「知らなければ選択肢にも入らない」このことに気が付けるかどうかが、理工学系分野における女性人材獲得の鍵となるでしょう。そして、認知してもらうためには、若年層への教育的アプローチがきわめて重要です。

その点で、本学が附属幼稚園、小学校、中等教育学校(中高一貫校)を持ってることは非常に大きな強みと言えます。具体的な取り組みをすぐに実践できる環境があるのは非常に恵まれたことです。実際に本学の理学部では、附属小学校の児童を対象に、理系の学びに触れてもらえるような活動にも取り組んでいます。こうした児童・生徒に対する理系分野の学びの普及に、本学はこれまでも意識的に取り組んできました。そこには女子大で長く学生たちを見てきた我々だからこそ分かる、「女性が理工学系分野に進出するにあたり重要なのは、若年期からの教育だ」という強い実感があるように思います。

門を開放しているだけでは、そこに人は集まってきません。門の中へ足を踏み入れてもらうための工夫と努力が必要なのです。その意識を持ち、「知ってもらうための取り組み」をどれだけ実践できるかが、この課題を解決するためのポイントであると私は考えます。


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