
学生中心で進化する大学教育DX 学びの楽しさを核に
大学間の連携にもプラットフォームが使える
原田:今、多くの大学で一番困っているのは、学生がなかなか集まらないということです。ただ、その問題を突き詰めていくと、教育内容をどうするかというところに帰着し、それを改善しないと結果的に学生も集まらないことになります。大学改革の焦点は、そこにだんだん絞られてきているように思います。
メディアで大学の話題というと、どうしても入試と就職、入口と出口に限られてしまいがちになります。しかし、大学業界として今一番重要なトピックは、やはり教育のコンテンツ、それも伝統的な対面のものだけでなく、デジタルをどのように活用していくか、ということになってきているように思います。効果的に学ぶためにどうしたらよいか、ということを設計してコンテンツを作っていくことは、本来は大学がやるべきことかもしれませんが、日本の大学では、先生方は忙しく、職員には権限がなく、また、インストラクショナル・デザイナーもいない。
zero to one のようにコンテンツも仕組みも学習科学の知見も持っている企業や個人が、これからはもっと大学に入っていって、コンテンツ作りやカリキュラム改革を活性化させられると良いと思います。
竹川:そうですね。もっと言うと、本当はそういったものをいろいろな大学間で、クロスで活かせるようになるとよいと思っています。
半導体研究を例に挙げれば、前工程が強いのはこの大学、後工程で特色があるのはこの大学、先端素材の研究開発はこの大学、というそれぞれの強みがあるはずです。各大学で同じような講座を、それぞれ別々の先生がやっていても、社会全体から見るとあまり効率的ではないと思うのです。そうではなくて、この講座では、この大学のコンテンツを活かす、という形で複数の大学のカリキュラムを組み合わせて授業を行なうようなことができるようになるのが望ましいと思います。
原田:先日聞いた講演で、山梨大学の中村和彦学長が、山梨県内で国立・公立・私立を含めた大学間連携コンソーシアムの旗振り役をして、教育の共通化をすすめていらっしゃるという話を聞きました。例えば、共通教育の授業の一部をオンライン化して、大学間で開講スケジュールや授業時間帯を統一することで、このようなことが可能になるわけです。
この流れで行くと、同じ内容の授業は1つあればいいということになります。もちろん、大学の特色がなくなるのではないかという懸念は当然出てきますが、個別大学の魅力については専門教育のなかで、それぞれの特色を出していけばよいわけです。国立・公立・私立の設置形態を超えた新たな枠組みを作って、大学間で協力してやっていくことが可能であることの好事例だと思います。
竹川:同じような例が、10年以上前にカリフォルニアで行われていました。カリフォルニア州内の一部の大学同士で、ジェネラルエデュケーション(一般教育科目)を共通化したのですね。そのときは、各大学から科目ごとに、「この人ぞ」という先生に出て来てもらって、非同期のオンライン教材にして、共通プラットフォームに載せていました。
さらに、それを各大学で学生にファシリテートするための人材のためのティーチング・トレーニングのプログラムも作って、教材とともにパッケージにしていました。当時は、それを中東などの、お金はあっても、まだ教育システムが十分には整備されていない国に提供を試みたりもしていました。
原田:そのような動きは、今後さらに重要になってくると思います。先ほどお話ししたような地域ごとの大学コンソーシアムや、もっと言えば文科省や国立大学協会といったところが旗振役になると、このようなモデルが拡がる可能性がありますね。
大学の教員にとっては、自分が今までやっていた授業を持てなくなってしまう、という不安はあるかもしれませんが、一方で、対話型授業のファシリテーター的な役割や、ゼミ教育のニーズは相変わらず残るわけですよね。先生方の身分保障をしっかりした上で、こういったモデルを大学に展開していく。zero to one の仕組みが一つの模範形になる可能性があると思います。
竹川:そうですね。将来的には、大学とそのようなコラボができたら、という話は社内でもしています。私たちには、これまで作ってきたコンテンツやシステムがありますから、まさに今の山梨大学のような事例で協力させていただいて、発展させられたらと思います。
ところで、最近、先に述べた「Coursera」の導入先として最も伸びているのがどのセクターかご存じでしょうか? 実は、大学向けの導入が一番伸びているのだそうです。これは、例えば、欧米で知名度に劣る大学や、アジアやアフリカなど新興国の新しい大学で、一定程度の単位にあたる講座をCourseraで受講させている、ということがあるからだそうです。
つまり、技術革新が目まぐるしい昨今、特にAI・デジタル分野などの専門の内容を教えることについては、その分野の第一人者や、その分野を教えることが得意な先生の授業に任せるということが世界では標準になってくる可能性があります。日本が遅れを取ってしまうことがないといいのですが。
原田:教えるのが上手くて、かつ研究もできるという教員もいるでしょう。しかし、やはり各教員の得意なことを活かつつ限られたリソースを適正配分していくことは、今後の大学の人材戦略においても大事なことになりそうですね。
竹川:まさにそうだと思います。そして、それが最終的には学生が一番のクライアント=Student is No.1につながることになるでしょう。
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