
東洋大学 入試部長・加藤建二氏 講演
■大学入試は今―高校・大学の三層構造―
現在の大学入試の状況をわかりやすくまとめると、下図のような形になるかと思います。高校側から言えば、学力上位の高校は一般選抜重視です。こういった高校は総合型選抜をそれほど重視しておらず、一般選抜で勝負していこう、ということになります。
学力中位のいわゆる中堅高校では、共通テストを受けている生徒は全体の約15%で、一般選抜はあまり受けておらず、8割は年内入試で合格が決まっている、という話を現場の先生からよく聞きます。
そのため、先生方の進路指導の主な仕事は、年内の総合型選抜や学校推薦型選抜の面接の練習や小論文の添削で、一般選抜の指導をする時間はあまりないのだそうです。
そして上位大学に進む生徒は、年内入試、特に指定校推薦を利用している人が多い印象です。
学力が厳しい、いわゆる進路多様校と言われる高校は、年内入試のみで大学進学するのが一般的です。

かたや大学側は、現在高校が探究活動などに力を入れているので、年内入試ではそういった活動をした生徒を取りたいところも多いのですが、学力上位校と言われる大学は、やはり一般選抜を重視しているところが多いと思います。
これについては、有名な国立大学で、総合型選抜で入学した学生が非常に優秀だ、という話を聞きますが、私たちから見れば、基礎学力を持った上で、探究活動で培った力を身に付けた人が受験するので、優秀であるのは当然だ、と思われます。
もともと優秀な学生が集まる大学が、学力に加えて多様な力を持った学生を取るために総合型選抜を拡大するのは、理解できるところです。
学力中位大学(本学はここに入ると思っています)では、一般選抜の入学者の基礎学力は担保できていると考えています。ただ、年内入試の入学者の基礎学力の不足は、入学後の様々なプレイスメントテストなどの結果を見ても顕著です。
そのため大学としては、基礎学力をきちんと持った学生に入学してもらうために、全ての定員を共通テスト利用入試で取れるのであれば、そうしたいところです。しかし、入学者の歩留まりを考えると、それは難しいので、様々な方式を試みている状況です。
一方、学力がなかなか厳しいと言われている大学は、基礎学力の担保は、年内入試・一般入試ともに厳しいと思います。そういった大学の方からよく聞くのは、「うちは指定校推薦で入ってくる学生が一番優秀だ」ということですが、本学の場合は、一般選抜の学生の方が成績は良いです。これは、おそらく一般選抜の合格ラインの違いだと思います。
学力が厳しい大学は、どうしても一般選抜の合格ラインがかなり下がってしまうので、指定校推薦で意欲を持って入ってきた学生の方が、入学してから伸びるというのは理解できます。そうすると、指定校推薦で少しでも優秀な学生を取りたい、という流れになるのは致し方ないことかと思います。
このように、大学も高校も三層構造になっています。文部科学行政ではこのような前提は表現されませんが、普通に考えて一番上位に合わせて政策を考えていると思います。
去年、私は後からお話しする年内入試の件で、文部科学省でいろいろなお話をさせていただきました。報道では「指導された」ということになっていますが、全くそのような感じではなく、なぜ年内入試で基礎学力の試験が必要なのか、ということについていろいろ意見交換をした、というのが実際のところです。それについては、文部科学省の方にもご理解をいただいたと考えています。
この辺りを踏まえて、東洋大学がどのような戦略を取ってきたのか、ということをお話しできたらと思います。


