東工大 データ・ドリブンな教学改革とは何か
FS分析では実現性を縦軸に、持続可能性を横軸に配置し、2次元の図を作成し、自分がどの象限に位置するかを考えます。おそらく最初は、実現性が高くて持続可能性が低い第2象限(左上)に位置することが多いと思います。最も理想的な状態は、実現性が高く持続可能性も高い第1象限(右上)です。第2象限から第1象限に移行するためには、実際には、第2象限から下に進んで第3象限(左下)に移動し、実現可能性も持続可能性も低い状態になってしまうことがあります。これは、使用する言語やスクリプトの数を減らすなどの対策が必要です。このときには、新しい言語への移行も必要となる場合があります。
次に、第3象限(左下)から第2象限(右下)に移動します。第2象限は、持続可能性が高いが実現が難しい状況です。これは、使用するプログラミング言語を絞り込み、既存のシステムを新しいプログラミング言語に移動することに相当します。その後、第2象限(右下)から最も望ましい第1象限(右上)に移動します。この状況では、既存のシステムが新しい言語に移動し、教職員もその新しい言語を活用できる状況です。
第2象限(左上)から第3象限(左下)、第4象限(右下)、第1象限(右上)に移動するには、時間と費用が必要となります。しかし、これらを避けて通ると、誰かが退職した後に引き継ぎができずに業務が行き詰まる可能性があります。実際、IRではこのようなことが頻繁に起こりがちです。
そこで、FS分析によって、第1象限(右上)の状況を実現した上で、私が提唱しているのが、「模擬多段階引き継ぎ」(SMASH:Simulated multi-step handoff)です。通常の引き継ぎマニュアルは、ある程度の前提知識のある人が作成するため、知識のない人が読んでも理解しづらいという問題が発生します。そこで、同じチーム内で知識がない新人などが入ってきた場合には、その人に対してマニュアルだけを渡して作業を行い、引き継ぎができるのかどうか、模擬的な引き継ぎを行ってみることを提案しています。この模擬的な引き継ぎは複数の段階で行われ、初めて知識がない人でも実際の業務を遂行できるようになると考えています。
要点をまとめますと、IRでは解析に様々なツールを使用します。再現性を確保するためにはプログラミングを用いることが推奨されます。プログラミングを使用する場合、多くの言語やスクリプトを組み合わせることによって実現性が高くなりますが、過度の使用は引き継ぎの問題を起こす可能性があります。そのために、FS分析を通じて、時間や費用をかけてでも、実現性と持続可能性の両立を図ることが重要です。また、多段階の引き継ぎを実施し、全く知識がない人がチームに参加しても、IR業務の持続可能性を確保しておくことが重要です。
以上のように、IRにおいては再現性、実現性、持続可能性、そして適切な引き継ぎ手法の確立が重要となります。
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インタビューと記事:阿部千尋(KEIアドバンス コンサルタント)