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複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―地理編―[後編]

「大学の顔」としての入試

思考力を問うという観点から言えば、やはり論述問題は重要でしょう。

共通テストでも、図表や資料を複数用いたり、いわゆる一問一答形式ではない、組み合わせ形式の問題を増やしたりすることで、受験生の思考力を測ろうとしていますが、これらの出題形式は、ほんの少し工夫が足りないだけで、単なるパズルのような問題になるリスクをはらむものです。そして、「パズル化」を避けるためには、出題側に高度な作問スキルと多大な努力が求められます。当然、過去問との重複も避けねばなりません。これらを考慮したとき、現在の共通テストの出題形式で思考力を測るのには、限界が近づいているのかもしれないと感じています。

そうすると、受験生の思考力を試すにあたり、各大学の個別試験における論述式問題の重要性がこれまで以上に高まってきます。私立大学を中心に、全問選択式を採用している大学もありますが、論述式問題を入試に取り入れることにより、知識のみならず、思考力や表現力も問うことができるのはもちろん、「大学が求める学生」の獲得にもつながっていくでしょう。


SNSなどを見ていると、「最近の学生はレポートの書き方を知らない」「そもそも文章が書けない」といった大学教員の意見を目にします。しかし、そのような不満を抱いている教員こそ、積極的に入試に関わり、「本学の求める学生は、このような資質・能力を有する学生ですよ」と、メッセージの発信に努めるべきです。

「入試問題が変われば教育が変わる」とまでは言いませんが、入試問題が、大学の求める学生像を受験生にアピールする機能を有しているのは確かです。文章が書ける学生に入学してほしいのであれば、その力を問うような試験問題を出題すべきだと思います。

また、入試は大学の入り口であると同時に、「大学の顔」とも言えるものです。面白みも魅力もない入試問題を作っていては、いつか受験生に選ばれなくなります。大学での学びに期待が持てなくなるからです。現在、大学の先生方がご多忙を極めていらっしゃることは重々承知していますが、「大学の顔としての入試」という意識の下、入学後の学びに期待が持てるような、熱意と魅力にあふれる入試問題を期待します。


「そうは言っても、自分の専門分野に関連する科目が、入試の出題科目として設定されていないのだ」と思われる方もいるでしょう。けれども、「自分の専門分野でしか入試に携わることはできない」というルールはどこにも存在しません。

例えば、地理が試験科目になっていないとしても、地理学に関わる内容を、英語や国語の試験問題の要素として組み込んでもらうなど、いくらでも工夫の仕方はあると思います。「自分の専門分野に関連する科目が入試の出題科目になっていないから」という理由だけで、入試に関わるのを諦めてしまってはもったいないです。入学してほしい学生を獲得するためにも、積極的に入試に関わり、求める学生像を受験生にアピールしていただきたいと思います。


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