
河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―地理編―[後編]
■ 文系生の地理選択の可能性
――今回の学習指導要領改訂に伴う『地理総合』の設置によって、地理は、およそ50年ぶりの必履修化を果たしました。これにより、文系生も地理を学ぶ機会を得ましたが、文系生の反応はいかがでしょうか。『地理総合』を学んだことで、文系生の思考に変化などは現れているのでしょうか。
私が2024年に担当した生徒は全員理系生であったため、文系生の『地理総合』に対する感想や、思考の変化については、正直なところまだよく分かりません。高校の先生方からも、あまり具体的なお話は聞けていないです。
我々予備校講師としては、2025年に入塾してくる既卒生に、「受験科目を歴史から地理に変更します」という文系出身の生徒が出てきて初めて、文系生と接する機会が生まれます。その中で、何か話が聞けると面白いですね。
ただし、高校の先生方が『地理総合』を教えるのに大変苦労されているという話はよく耳にします。
――社会科の先生は、歴史科出身の方が多いですからね。
そのため、今は学ぶことが増えた生徒よりも、教えることが増えた先生方のほうが大変かもしれません。
――従来は地理歴史科目の選択として、「文系生は歴史、理系生は地理」という構図が一般的でしたが、『地理総合』の必履修化に伴い、それが変わってくる可能性は考えられますか。
2025年度入試を受験した生徒たちの科目選択状況は従来通りでしたが、先述のとおり、2025年4月以降に入塾する大学受験科生(いわゆる既卒生)からは、地理を選択する文系生が出てくる可能性もあります。彼らの動向には注目したいところです。
ただし、地理は問題の性質上、共通テストで8割以上の高得点をねらうのが難しい科目です。科目選択の際には、志望大学の合格に必要な得点に照らして、慎重に判断をしてもらいたいと思います。「得点率は6~7割で良いから、地理歴史の受験勉強の負担を少し減らしたい」ということであれば、地理を選択してもらって構いませんが、それ以上の高得点を望む場合は、負担であろうとも、歴史で受験をするべきでしょう。
その意味で、大学受験予備校の地理科講師が「地理って面白いでしょう?」と発言することには、個人的にやや抵抗感を覚えます。予備校には、「その科目の学問的な面白さを伝える」こととは別に、「試験で点を取れるようにする」という絶対的なミッションが存在するからです。地理が8割以上の得点を期待しづらい科目である以上、我々が手放しで「地理は面白いぞ!」と言ってしまって良いのだろうかと、常々考えさせられます。だから、生徒に「先生の授業楽しかったです!面白かったです!」と言われると、評価していただいていることに対し大変ありがたいと思う一方で、少々複雑な気分にもなりますね。
■ 大学個別試験の『地理』に期待すること
――各大学の個別試験において、選択科目として『日本史』『世界史』のほかに『地理』が用意されていることが受験のしやすさにつながっていくのかどうかも、これから分かってくる部分ですよね。
そうですね。しかしながら、『地理総合』が必履修科目になったからと言って、各大学の個別試験でも『地理』を用意すべきかと問われると、正直なところ、作問の負担と受験生の少なさが釣り合わないとは思います。特に私立大学では、もともと入試科目として地理を置いていた大学でも、さまざまな事情により、地理が入試科目から外されてきました。地理必履修化の動きがあったとはいえ、この傾向が簡単に変わるとは考えづらいです。
他方、現在入試科目として地理を置いている大学には、出題を継続してもらいたいと強く願っています。入試は、その学問分野の可能性を受験生に、ひいては世の中にアピールできる貴重な機会です。今回の学習指導要領改訂に伴う地理の必履修化は、「地理学にできること」を社会に発信するという点で、非常に画期的でした。この流れを汲むかたちで、各大学の入試にも、「地理学の可能性」が受験生に、世間に伝わるような変化を期待しています。
ただし、防災や減災は、地理学上非常に重要でありながら、学力識別に足る問題とするのが非常に難しいテーマです。これはたいへん歯がゆく、困難な課題でもありますが、大学の先生方がこのテーマを「入試問題」へと昇華してくださることにも、大いに期待をしています。
▶参考:[前編]地理学における重要テーマと作問上のジレンマ -共通テスト『地理総合,地理探究』結果分析⑤-


