オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―地理編―[後編]

文系生の地理選択の可能性

私が2024年に担当した生徒は全員理系生であったため、文系生の『地理総合』に対する感想や、思考の変化については、正直なところまだよく分かりません。高校の先生方からも、あまり具体的なお話は聞けていないです。

我々予備校講師としては、2025年に入塾してくる既卒生に、「受験科目を歴史から地理に変更します」という文系出身の生徒が出てきて初めて、文系生と接する機会が生まれます。その中で、何か話が聞けると面白いですね。

ただし、高校の先生方が『地理総合』を教えるのに大変苦労されているという話はよく耳にします。

そのため、今は学ぶことが増えた生徒よりも、教えることが増えた先生方のほうが大変かもしれません。


2025年度入試を受験した生徒たちの科目選択状況は従来通りでしたが、先述のとおり、2025年4月以降に入塾する大学受験科生(いわゆる既卒生)からは、地理を選択する文系生が出てくる可能性もあります。彼らの動向には注目したいところです。

ただし、地理は問題の性質上、共通テストで8割以上の高得点をねらうのが難しい科目です。科目選択の際には、志望大学の合格に必要な得点に照らして、慎重に判断をしてもらいたいと思います。「得点率は6~7割で良いから、地理歴史の受験勉強の負担を少し減らしたい」ということであれば、地理を選択してもらって構いませんが、それ以上の高得点を望む場合は、負担であろうとも、歴史で受験をするべきでしょう。

その意味で、大学受験予備校の地理科講師が「地理って面白いでしょう?」と発言することには、個人的にやや抵抗感を覚えます。予備校には、「その科目の学問的な面白さを伝える」こととは別に、「試験で点を取れるようにする」という絶対的なミッションが存在するからです。地理が8割以上の得点を期待しづらい科目である以上、我々が手放しで「地理は面白いぞ!」と言ってしまって良いのだろうかと、常々考えさせられます。だから、生徒に「先生の授業楽しかったです!面白かったです!」と言われると、評価していただいていることに対し大変ありがたいと思う一方で、少々複雑な気分にもなりますね。


大学個別試験の『地理』に期待すること

そうですね。しかしながら、『地理総合』が必履修科目になったからと言って、各大学の個別試験でも『地理』を用意すべきかと問われると、正直なところ、作問の負担と受験生の少なさが釣り合わないとは思います。特に私立大学では、もともと入試科目として地理を置いていた大学でも、さまざまな事情により、地理が入試科目から外されてきました。地理必履修化の動きがあったとはいえ、この傾向が簡単に変わるとは考えづらいです。

他方、現在入試科目として地理を置いている大学には、出題を継続してもらいたいと強く願っています。入試は、その学問分野の可能性を受験生に、ひいては世の中にアピールできる貴重な機会です。今回の学習指導要領改訂に伴う地理の必履修化は、「地理学にできること」を社会に発信するという点で、非常に画期的でした。この流れを汲むかたちで、各大学の入試にも、「地理学の可能性」が受験生に、世間に伝わるような変化を期待しています。

ただし、防災や減災は、地理学上非常に重要でありながら、学力識別に足る問題とするのが非常に難しいテーマです。これはたいへん歯がゆく、困難な課題でもありますが、大学の先生方がこのテーマを「入試問題」へと昇華してくださることにも、大いに期待をしています。


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