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河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―地理編―[前編]

河合塾 地理科講師 松本 聡先生インタビュー【独自記事】

平成30年(2018年)に告示された新学習指導要領。今回の改訂における地理歴史科の科目構成変更は、世間の大きな注目を集めた。『地理総合』の新設により、およそ50年ぶりに地理が必履修科目に復帰したことも記憶に新しい。

また、2025年度の大学入試は、新課程入試の初年度であると同時に、今回の課程変更の集大成とも言えるものである。そこで我々は、2025年度入試に関して河合塾講師へのインタビュー取材を実施した。

地理編の前編では、河合塾地理科講師:松本聡先生に、2025年度共通テストのトピックスや工夫が見られた問題、あるいは受験生が迷った問題について、河合塾のデータに基づく分析結果をうかがった。さらに、入試分析を通して見えてきた、地理学における重要テーマと作問上のジレンマに関する話題や、出題者と受験生、双方の視座に立ち展開される「共通テスト地理論」は、非常に示唆に富むものである。

【目次】
■ 学習指導要領改訂のポイントと地理学上の重要テーマ
■ 『地理総合』で身につけた思考力を試すための出題形式とは -共通テスト『地理総合,地理探究』結果分析①-
■ 基本的な知識の未定着が課題 -共通テスト『地理総合,地理探究』結果分析②-
■ 「特別な知識」に受験生は弱い傾向が見られる -共通テスト『地理総合,地理探究』結果分析③-
■ コラム①:思考力を働かせて考えた結果の誤り?
■ 「地域調査」の公平性を考える -共通テスト『地理総合,地理探究』結果分析④-
■ 地理学における重要テーマと作問上のジレンマ -共通テスト『地理総合,地理探究』結果分析⑤-
■ 思考力を問う問題の典型 -共通テスト『地理総合,地理探究』結果分析⑥-


学習指導要領改訂のポイントと地理学上の重要テーマ

『地理総合』ならびに『地理探究』は、旧『地理A』『地理B』を一度統合したのち、再編成したような科目となっています。基本的に旧『地理A』『地理B』の内容が引き継がれているものの、「防災」がテーマとして大きく扱われるようになるなど、持続可能な社会を目指すことを念頭に、各項目の拡充が図られているのが特徴です。

『地理総合』は、大きく3つの項目で構成されています。第1の項目「地図や地理情報システムで捉える現代世界」は、旧『地理A』の「地球儀や地図からとらえる現代世界」と、旧『地理B』の「地理情報と地図」および「地図の活用と地域調査」が一つにまとまった内容です。ただし、単純な移行・統合ではありません。獲得目標として、「課題を追究したり解決したりする活動」を通して、現代世界の地域構成や地理情報についての知識・技能を習得することはもちろん、地図やGIS(地理情報システム)の「適切な活用の仕方などを多面的・多角的に考察し、表現すること」が新たに定められています。知識としての理解だけでなく、その活用の仕方を身につけるところまで求められるようになりました。

第2の項目「国際理解と国際協力」は、旧『地理A』の「世界の生活・文化の多様性」および「地球的課題の地理的考察」を基とするものですが、グローバル化の進展する現代社会において、自他の文化を尊重し国際理解を図ることの重要性や、地球的課題を解決し、持続可能な社会を実現するための国際協力の必要性に対する理解が、旧科目よりも強く説かれています。

そして、今回の地理科目改訂の目玉となったのが、第3の項目「持続可能な地域づくりと私たち」です。「防災」がテーマとして大きく扱われるようになった点で注目を集めました。本項目は、「防災教育」と「持続可能な地域づくりのための教育」を2本柱としており、前者では育成すべき能力として、我が国ならびに世界の自然環境の特色を理解し、自然災害への備えや対応について考察する力が掲げられています。後者はいわゆる「地域調査」にあたる内容です。生活圏の調査を基に、地域の抱える地理的課題について、主題を設定し、課題の解決に求められる取り組みなどを多面的に考察する力の育成が謳われています。


『地理探究』は、旧『地理B』を基礎とする科目ですが、従来『地理B』で扱われていた大項目「様々な地図と地理的技能」(先述の小項目「地理情報と地図」および「地図の活用と地域調査」を内包)の内容が『地理総合』で扱われるようになったことにより、主として「系統地理」「地誌」を扱う科目となりました。また、旧『地理B』において大項目「現代世界の地誌的考察」に含まれる小項目の一つであった「現代世界と日本」が、『地理探究』では大項目「現代世界におけるこれからの日本の国土像」として拡充され、当科目のまとめたる位置をなしています。「系統地理」と「地誌」で学習した内容を、最後に「日本」にフィードバックさせることで、我が国が抱える地理的な諸課題を、生徒自ら考察し、表現できるようになることが目指されていると言えるでしょう。

専門性の高さにおいて、『地理総合』『地理探究』の間に違いは見られるものの、地理学上の重要テーマである、「日本で生活している我々が、我が国の自然環境を理解し、防災や減災に向けて、能動的に振る舞えるような態度を養うこと」を重視している点は両者共通です。しかしながら、作問者側に立って考えた時、この内容を試験問題に落とし込むのは非常に難しいとも感じています。

文部科学省:高等学校学習指導要領(平成30年告示)


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