河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―日本史編―[前編]

共通テスト後の受験生の反応と、拡大する現場の不安

私が担当しているのは主に大学受験科生(いわゆる既卒生)のクラスのため、高校3年生の生徒たちとは話す機会が少なく、『歴史総合』についての具体的な感想も、直接はあまり聞けていません。けれども、伝え聞いているところでは、やはり「『歴史総合』がきつかった。あんなに世界史寄りの問題が出るとは思わなかった」という声が目立ちます。

もし次年度以降の共通テストでも、2025年度同様、『歴史総合』の範囲で世界史寄りの問題が多数出題されるような状況が続いた場合、生徒の日本史離れが進んでしまうのではないかと危惧しています。事実として、2025年度の共通テストでは、『歴史総合,日本史探究』と『歴史総合,世界史探究』との間で、平均点に10点近く差が生じました(日本史:56.99点、世界史:66.12点)。10点程度では得点調整も入りません。この結果を見た生徒が「明らかに日本史不利じゃん!」と考える可能性は十分にあり得ます。

そしてこの平均点の差には、やはり『歴史総合』の範囲での得点差が影響した可能性が高いです。2025年度共通テストの『歴史総合』は、世界史選択者にはそれほど負担でなかったように思いますが、日本史選択者にしてみると、3問も世界史寄りの問題が出題されているわけですから、相当苦しめられたでしょう。

一方で、別の考え方をするならば、『歴史総合,日本史探究』における世界史寄りの問題は全33問中3問、割合にして1割弱です。医学部志望者など満点が求められる受験生は、負担であろうとも『歴史総合』をきちんと勉強する必要がありますが、それ以外の受験生については、“『歴史総合』の範囲は「出たとこ勝負」”というのも、受験戦略上は考えられるのかもしれません。1割弱のために『歴史総合』を本気で勉強するとなると、その負担はあまりに大きすぎるからです。ただし、科目としては悲しいですけどね。

実は、試作問題では世界史寄りの問題は1問程度でした。その程度であれば、『日本史探究』選択者にも、さほど大きな負担にはならないのですが……。高校の先生方の中でも、不安の声が拡がっているようです。

河合塾|2025年度 大学入学共通テスト速報
大学入試センター|令和7年度試験の問題作成の方向性、試作問題等


コラム① 共通テストの「脱暗記傾向」に対する懸念

この国に居住し生きている以上、やはりその来し方は学ぶべきであるというのが私の考えです。細かい内容まで覚えておく必要はないのかもしれませんが、大きな時代の流れくらいは理解しておかないとまずい気がします。その意味で、共通テストレベルの内容は最低限の教養として学んで然るべきだと思いますし、そこで得た知識も無駄にはならないと思いたいところです。

しかし、今日の共通テストでは、思考力や判断力を重視するあまり、用語理解、すなわち知識の部分がやや軽視されているように感じています。資料や図表の読み取りが問題の多くを占め、細かい用語は問わないのが、近年の共通テストの特徴です。

正誤判定の問題も、センター試験時代とはまったく作りが異なります。用語の誤りが判定のポイントとなることはほとんどなく、選択肢として並ぶ文には、いずれも正しい内容が書かれています。その「正文」の中から、「問いに合致するもの」を選ばせるのが、現在の共通テストの主流です。思考力や判断力を問うという意味では、これは良いことなのかもしれませんが、生徒の学んだ達成感なども考慮すると、個人的には、もう少し用語を問うても良いように思います。

おそらくは詰め込み型学習へのアンチテーゼが、こうした「用語を問わない」という出題傾向に影響しているのでしょう。しかし、それがあまり極端になりすぎると、歴史的知識が身につかない、あるいは抜け落ちてしまう気がして、個人的には非常に心配です。

年号丸暗記の勉強方法自体にあまり意味がないという考えには私も同感です。しかしながら、年号を全く覚えていなくて良いのかというと、それは違うと思います。歴史である以上、「いつ起こった出来事か」は押さえておくべき観点です。そのため、極端に年号や用語を悪者扱いしてしまうと、何だか違う科目になってしまいそうな気がして心配しています。


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