
河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―日本史編―[前編]
■ 共通テストの出題傾向の変化
――お話いただいた学習指導要領改訂のポイントも踏まえて、ここからは具体的に、2025年度入試のトピックスや、課程変更に伴う入試問題の変化についておうかがいします。まず共通テストについて、新課程に移行したことに伴い、出題傾向に変化は見られたのでしょうか。
前回の学習指導要領改訂時(平成21年3月告示)から、「学力の三要素*」の育成が強調されています。そして共通テストになり、それらの能力(共通テストにおいては特に思考力・判断力)を問う問題が明らかに増加しました。
*学力の三要素:「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」

センター試験および共通テストの出題傾向
例えば、2020年度センター試験(センター試験最終年度)では、全36問のうち、「知識・技能」のみで解答可能な、いわゆる「知識問題」は34問ありました。一方、「知識・技能」と「思考力・判断力」の両方が求められる問題は、わずか2問です。このことから、センター試験は明らかに知識偏重型の試験であったと言うことができます。
しかし、2021年度共通テスト(共通テスト初年度)では、「知識・技能」のみで解答できる問題は19問まで減少し、「思考力・判断力」のみで解答できる問題が3問見られたほか、「知識・技能」と「思考力・判断力」の両方を要する問題は10問まで増加しました。
そして、今回の2025年度共通テスト(新課程入試元年)では、「知識・技能」のみで解答できる問題が2問、「思考力・判断力」のみで解答できる問題が1問であったのに対し、その両方の能力が求められる問題は30問出題されていました。つまり、ここ数年で共通テストの出題傾向は劇的に変化しているのです。
共通テストでは当初から、センター試験時代と比較にならないほど「思考力・判断力」が求められていましたが、新課程に完全移行したことで、その傾向はいっそう強まったと言えるでしょう。(以上の問題分類は、講師独自の分析に基づく)
■ 共通テスト新科目『歴史総合,日本史探究』 結果分析① -『歴史総合』と受験生の反応-
――2025年度共通テストにおいて、「知識・技能」「思考力・判断力」の両方が求められた問題として特徴的なものを教えてください。
『歴史総合』の範囲では、まず第1問 問1です(以下、問題番号は『歴史総合,日本史探究』に準ずる)。
下線部ⓐ「主権国家からなる国際秩序」について述べた文(あ・い)と、「18世紀末にイギリス人が自国船での利用を公認されていた港の場所」(a・b)について最も適当な組合せを選ぶ問題です。前者については「い(諸国家が、外部の干渉を受けずに、国境内の統治権を認め合う秩序)」が正解で、「あ(朝貢と冊封によって結びつけられた秩序)」を選ぶ人は少ないだろうと予測していましたが、実際のマーク率を見ると「あ」を選んだ受験生も結構いました(マーク率:①11.0%、②28.1%、③正答32.9%、④27.7%。①②が「あ」、③④が「い」を含む選択肢)。
(以下、正答率は河合塾「共通テストリサーチ」における『歴史総合,日本史探究』受験者の結果に基づく)
設問文にある通り、「あ」「い」の判定は下線部ⓐのみに注目して行われねばなりません。しかし、下線部ⓐを含むパネル全体としては、朝貢と冊封の関係に基づく国際秩序に関する文章が書かれています。おそらく「あ」を選んだ受験生は、パネル全体のトーンに引きずられてしまったのでしょう。問われている内容を冷静に読み取る必要がある点で、典型的な「思考力・判断力」系の問題と言えます。
他方、「18世紀末にイギリス人が自国船での利用を公認されていた港の場所」の判定は、完全に知識問題です。ただし、この判定にかかる負荷は、日本史選択者と世界史選択者で大きく異なります。
18世紀末の中国において a(広州)が唯一の貿易港であったことは、『世界史探究』の必修事項です。そのため、『世界史探究』を学んできた生徒は、容易く正解を選ぶことができたでしょう。一方、その内容(18世紀末の中国において広州が唯一の貿易港であったこと)は、『日本史探究』では扱われません。『日本史探究』を学んできた生徒は、「18世紀末はアヘン戦争よりも前の時代だから、b(上海)は未開港である」ことに気がつき、bを排除できて初めて、正解にたどり着くことができます。しかし、これは結構大変な思考プロセスを経た判断です。その意味で、本問は世界史寄りの問題であったと言えるかもしれません。
ちなみに、第1問 問3は、まさしく世界史寄りの問題でした。空欄アに入る国名を判定するには、会話文中の「アが穀物法を廃止したことにも通じる」という発言がポイントとなりますが、「穀物法の廃止」は『日本史探究』ではまったく扱われない内容です。完全に世界史選択者有利であったと言えるでしょう。
「思考力・判断力」が求められる問題の典型としては、第1問 問6を挙げることができます。グラフの読み取り問題です。ただし、選択肢の各文に書かれている内容がグラフ上のどの時期に当たるのかを判断するには、確かな知識も必要となります。また、第1問 問2でも資料とパネルの読み取りが求められており、知識だけでは正解できない問題となっています。共通テストで増加傾向にある、「知識・技能」と「思考力・判断力」の両方が要求される問題とはこのようなものです。
ちなみに、「思考力・判断力」のみで解答できるのは第1問 問5です。ミシシッピ号の寄港地と、日本各地におけるコレラの流行時期に関する問題で、地図を正しく読み取ることさえできれば正解にたどり着けます。必ずしも知識を必要としない、「思考力・判断力」特化型の問題の典型例と言えるでしょう。
――『歴史総合』の範囲であるこの第1問について、受験生の反応はいかがでしたか。
「きつかった」という声がやはり多く聞かれました。第1問は8つの設問で構成されていますが、そのうち3問が世界史寄りの問題だったからです。問1・問3については先ほど述べましたが、中でも世界史の知識が要求されたのが問7でした。メモⅠ~Ⅲの出来事を年代順に並べ替える問題ですが、メモに書かれている出来事がすべて世界史の内容だったのです。日本史の要素が一切なく、「このような問題が出題されると困る」と、現場が最も恐れていたタイプの問題でした。例えば、メモⅠが「プラハの春」を指していることに、世界史選択者はすぐに気がつけますが、日本史選択者にはまず分からないでしょう。そうすると、時期の特定は非常に困難になります。
――しかし、いずれも『歴史総合』で学ぶ内容なのですよね?
もちろんです。『歴史総合』をきちんと勉強していれば解ける問題ではあります。けれども、受験生にそこまでの余裕があるかというと、なかなか厳しいのが現実です。『日本史探究』に集中して勉強してきた生徒は、まったく歯が立たなかったでしょう。
本問の正答率は38.8%でした。40%を下回っているため、かなり悪い結果と言えます。しかし、実はこれよりも正答率の低い問題が数問あるのです。
――最も正答率が低かったのはどの問題でしょうか。
第6問 問4です(正答率27.3%)。『日本史探究』の範囲からの出題で、日本の占領期の出来事として適当でない文を選ぶ、センター試験時代からよくみられたタイプの問題です。そのため、本問の正答率が全問中最低であったことには大変驚きました。
――要因は何だと思われますか。
謎です。知識だけで解答可能な問題で、難度的にも標準ですから不思議でなりません。ただし、戦後史からの出題のため、現役生の出来が悪かった可能性は考えられます。高校の授業で学習時間が十分に確保できなかったのかもしれません。
――私が受験生の時も現代史は駆け込みでしたが、今も変わらないのですね。
そうですね。しかしながら、全国の入試問題を見ていくと、特に難関私立大学を中心に、戦後史からの出題は増加傾向にあります。このことを踏まえると、現役生には早期から、計画的に学習を進めてもらう必要があるでしょう。
――1年次に『歴史総合』で近現代史を学んでいても、戦後史への対応は難しいのでしょうか。
『日本史探究』で扱われる戦後史と、『歴史総合』で扱われる戦後史では、レベルが全く異なります。本問のような問題を、『歴史総合』で学んだ知識だけで解くのは非常に困難でしょう。


