
河合塾講師が語る!2025年度新課程入試 ―世界史編―[後編]
■ 大学には多様な学びを提供できる場所であり続けてほしい
――井上先生は、大学にどのような教育を期待し、どのようなかたちで学生たちの力を伸ばしてほしいと望まれますか。
ひとことで答えるのが非常に難しい質問ですね。
今は、1年生の前期などで、大学での学び方をレクチャーするような機会があるのでしょうか?大学教育として、中学校、高校のように、手取り足取り導くというのは少し違うと思いますが、急に手を離すのも、また違うと思います。
今回の学習指導要領には、「高校で探究的な学びを実践し、主体的に学ぶ姿勢を身につけた上で、いざ大学へ!」という高大接続的なコンセプトも大いにあるのでしょうけれども、実際に生徒がそのような姿勢を身につけて高校を卒業できているかに関しては、不確かな部分も多いです。そのため、大学入学直後から「高校で探究をやってきたんだから自分で勉強できるよね?」という指導が可能かどうかには、些か疑問があります。
(大学4年間)×(前期&後期)の計8サイクルの中で、「各段階で何を学ばせ、どのような力を身につけさせるのか」。そうした学びの段階的な構造が、おそらく理系の学部にはしっかりとあるのでしょう。一方で、文系の学部ではどうなのでしょうか?大学、学部、学科によって状況は異なると思いますが、個人的には少し気になるところです。
また、最近の生徒たちを見ていると、「この大学に行きたい」というアバウトな希望を持った人よりも、「この大学でこの勉強がしたい」と、学びたいことを明確にした上で志願先を決めている人が年々増加しているように感じます。おそらくは高校におけるキャリアデザインの授業などで、自分のやりたいことや興味のあることについて考える機会が増えたからでしょう。かなり具体的な希望をもって、志願先を決めている生徒が非常に多いです。
高校生の時分から学びたいことを明確にして、大学に進学していくこと自体はとても素晴らしいと思いますし、それを否定する気は一切ありません。けれども個人的には、一つの分野に固執せず、大学進学後に幅広く、さまざまな学問と出会ってみてほしいとも思います。多種多様な学問と出会える機会があるのが大学という場所ですから、学生たちには幅広く、たくさんの学びを得てもらいたいです。
――明確な目標を持って進学して行くのも素敵ですし、具体的に何を学びたいかははっきりしないけれども、大学でさまざまな学問と出会う中で、自分の興味を引かれる分野を見つけていくのも、また素敵なことだと思います。あるいは、「これが学びたくて入学したけれども、さまざまな授業を受講する中で、別の分野も面白そうだと思った!」といった新たな興味が喚起されるのも、大学という場所ならではですよね。
それは撤退や挫折ではなく、プラスの方向転換ですからね。その意味でも、大学には多様な学びを提供できる場所であり続けてほしいと思います。生徒たちは大きな期待と希望を持って大学へ進学していきますから、彼らのわくわく感が、4年間ずっと続くような場所であってほしいですね。